現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
1、世界的問題としての環境問題
2、地球温暖化
3、世界的異常気象
4、オゾン層破壊
5、環境ホルモン
6、環境保全
7、環境経営
8、循環型社会
9、環境教育
10、環境問題に関する本
11、環境問題に関する英文
環境問題読本①~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)国連人間環境会議(ストックホルム会議、United Nations Conference on the Human Environment)
1972年、スウェーデン首都ストックホルムで開催。テーマは「かけがえのない地球:Only One Earth」。
国連主催による初めての環境に関する国際会議で、この会議が環境問題対策の原点にあると言えます。会議では「人間環境宣言」(Declaration on the Human Environment)を採択し、この会議の成果を実施に移すために設立された国際機関が国連環境計画(UNEP=United Nations Environment Programme、事務局はケニアのナイロビ)です。
(2)地球サミット(環境と開発に関する国際会議:Earth Summit / United Nations Conference on the Environment and Development)
1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開催。将来の世代に資源と良好な環境が残せるようにという観点から、開発と環境保全を調和させる「持続可能な開発」(サスティナブル・ディヴェロップメント、Sustainable Development)を基本理念として打ち出しています。このサミットでは、「環境と開発に関するリオ宣言」(Rio Declaration on Environment and Development)、「アジェンダ21」(Agenda 21、21世紀に向けた人類の行動計画)、「気候変動枠組み条約」(地球温暖化防止条約、the United Nations Framework Convention on Climate Change)、「生物多様性条約」(Convention on Biological Diversity)、「森林原則声明」(Forest Principles)が採択されました。環境問題に対する具体的な取り組みはこのサミットから始まったと言ってもよいでしょう。
(3)国連ミレニアム開発目標Millennium Development Goals: MDGs)
2000年(の国連ミレニアムサミット(Millennium Summit)で「ミレニアム宣言」(United Nations Millennium Declaration)が採択され、貧困撲滅のために次のような目標が決定されています。
①2015年までに1日1ドル未満で暮らす人口、飢餓に苦しむ人口の比率をそれぞれ半減する。
②2015年までに男女の差別無く、全ての児童が初等教育課程を完全に修了する。
③あらゆる教育段階で男女の均等な機会を確保する。
④2015年までに5歳以下の子供の死亡率を3分の2削減する。
⑤2015年までに妊産婦死亡率を4分の3削減する。
⑥2015年までにHIV・エイズ感染、マラリアなどのまん延を止め、減少に転じさせる。
⑦各国の政策に「持続可能な開発」を組み入れ、環境資源の破壊を阻止する。飲料水へのアクセスがない人口割合を半減する。2020年までに最低1億人のスラム居住者の生活を顕著に改善させる。
⑧政府開発援助を増額させる。市場へのアクセスを拡大する。債務を長期的に持続可能なものとする。
(4)環境開発サミット(持続開発な開発に関する世界首脳会議:WSSD=World Summit on Sustainable Development)
2002年、南アフリカのヨハネスブルクで開催。1992年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた「国連環境開発会議(地球サミット)」から10年を機に開催されたもので、世界170カ国以上から100人以上の首脳ら政府代表、民間活動団体(NGO)、企業、地方自治体など6万5000人以上が参加しました。リオでは地球環境保全の行動計画「アジェンダ21」(Agenda 21)が採択されましたが、実行されていない部分が多いため、「アジェンダ21」の検証と促進を目的として先進国や途上国の国益が激しくぶつかる中、経済、社会、環境を将来にわたって調和させる「持続可能な開発」に向けた具体的な行動計画と、各国首脳の決意が示されました。具体的には貧困対策としての「世界連帯基金」の設立、「生産・消費パターンを転換させる10年計画の策定」などですが、採択文書には法的拘束力は無く、実行は各国政府の自主的な対応にかかっていました。
ちなみにアナン国連事務総長は2001年末にまとめた報告書「アジェンダ21の実施」で、「リオで決めた目標の達成は予想以上に遅く、いくつかの分野では10年前より悪化している」として、次のような指摘をしています。
①1日1ドル以下で生活する最も貧しい人々は12億人。
②安全な飲み水を確保できない人は11億人以上。
③絶滅の危機にある動植物種は1万1000種。
④1990年代に伐採された森林は年間1400万ヘクタール。
⑤1992~99年に世界のエネルギー消費量は10%増加し、温室効果ガスは増え続けている。
(5)持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいます。
目標1【貧困】あらゆる場所、あらゆる形態の貧困を終わらせる。
目標2【飢餓】飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する。
目標3【保健】あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
目標4【教育】全ての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する。
目標5 【ジェンダー】ジェンダー平等を達成し、全ての女性及び女児のエンパワーメントを行う。
目標6【水・衛生】全ての人々の水と衛生の利用可能性と、持続可能な管理を確保する。
目標7 【エネルギー】全ての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する。
目標8【経済成長と雇用】包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する。
目標9【インフラ、産業化、イノベーション】強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る。
目標10【不平等】国内及び各国家間の不平等を是正する。
目標11【接続可能な都市】包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。
目標12【接続可能な消費と生産】持続可能な消費生産形態を確保する。
目標13【気候変動】気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。
目標14【海洋資源】持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。
目標15【陸上資源】陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する。
目標16【平和】持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
目標17【常套手段】持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。
(6)環境問題のポイント(Points of Environmental Issues)
①環境問題は地球的規模の問題である(Environmental issues are global issues.)
かつて高度経済成長の裏面として生じた公害問題は、企業の責任が問われ、OECD(経済協力開発機構)によって「汚染者負担の原則」(PPP=Polluter Pays Principle)が確立されましたが、今日の環境問題は一企業・一国家というレベルを超えた国際協力の中で対処するしかない段階に来ています。環境関連諸費用も増大化しつつあり、これらの負担をめぐるルールとシステムの本格的な検討が急務となっていると言えます。
②環境立国の道(an Environment-oriented Nation-building Strategy)
環境問題は従来の社会システムが生み出した構造的問題でもあり、「大量生産・大量消費・大量廃棄」というあり方から、「省エネルギー・適正生産・リサイクル」というあり方へ転換していかない限り、必然的に直面する問題であると言えます。こうした「循環型社会」の実現が急務であり、経済面でも「環境的に健全で持続可能な経済」(Environmentally Sound and Sustainable Economy)=「環境保全型経済」を目指していくことが避けられない課題となっています。
③人間と自然の共生(Coexistence of Humans and Nature)
「自然を利用し、支配する」という発想から、「自然と調和し、共存する」という発想の転換が必要です。これは西洋的自然観に東洋的自然観をマッチさせていくことでもあります。
④ThinkGlobally,ActLocally(地球規模で考え、足元から行動を)
環境問題に取り組む姿勢を表した標語です。
環境問題読本②~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)CO2(CarbonDioxide)濃度が2 倍になると、どうなるか
①水資源=乾燥地帯で大きな影響が生じ、干ばつの激化で水の確保に大きなコスト増。
②植生=森林面積3分の1が変化。病虫害の増加などで森林破壊、大量のCO2放出も。
③食料生産=熱帯・亜熱帯で生産量低下、最貧困地域で飢饉の危険。害虫、異常気象の影響も。
④健康影響=マラリアの患者数5000万~8000万人増加、コレラなども増える恐れ。
⑤洪水・高潮=被害を受けやすい人口は9200万~1億1800万人と現在の2倍以上に。
ちなみに世界の研究者で作る「気候変動に関する政府間パネル(IPCC=Intergovernmental Panel on Climate Change)」は2001年にまとめた第3次報告書で、20世紀中に地球上の平均気温が0.6度前後上昇したとし、「1990年代は過去1000年間で最も暖かい10年間だった可能性が高い」としています。このままでは1990年に比べ、2100年時点の気温は最大5.8度、海面水位は最大0.88メートル上昇すると予測されており、すでに南太平洋の島国ツバルでは、ここ数年、海面上昇が影響していると見られる家屋の浸水が頻発しているのです。
(2)京都会議(Kyoto Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)
気候変動枠組み条約(UNFCCC)は1992年の地球サミットで署名され、1994年に発効しました。その第3回締約国会議(COP=Conference of parties)である京都会議(COP3)では、60~70年代の公害問題(その基本原則は「PPP=Polluter Pays Principle、汚染者負担の原則」とされました)とは違って、今や環境問題は国や企業の時限を超えた世界的問題であることを印象付けましたが、そこで採択された「京都議定書(Kyoto Protocol)」では、具体的に経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心とした先進国と旧ソ連、東欧諸国などは、2012年までの5年間で達成すべき温室効果ガス(Greenhouse Effect Gases=二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素など6種類)の排出削減目標を課しています。この間の年間平均排出量について、日本は1990年度比で6%、EUは8%、米国は7%を減らさなければならず、発展途上国に削減義務が無いことへの反発や自国経済の発展阻害への懸念から米国は京都議定書を受け入れず、修正協議にも応じなかったことから、気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)は紛糾しました。
地球温暖化は二酸化炭素の排出が主原因ですが、この他にも大気中の硫黄化合物や窒素化合物による酸性雨、焼却炉や産業廃棄物によるダイオキシン、オゾン層を破壊するフロンガスなどが問題となっており、こうした状況を生み出した現代社会のあり方そのものが問われることとなっています。すなわち、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄では、結局、人間自身の首を自ら絞める結果となったのであり、これに対して省エネルギ-・適正消費・リサイクルが必要であることが認識されるようになったわけです。ここで出てきたのが「循環型社会(Circulating Society)」「環境調和型社会(Environmentally friendly society)」「環境立国(Building an Ecologically Sustainable Society)」という概念で、宇宙船地球号の一員として避けられないテーマとなっています。
(3)京都メカニズム(Kyoto Mechanisms)
地球温暖化防止京都会議では、温室効果ガス排出量削減をさらに効果的に進める具体策として、各国間で温室効果ガスの排出枠をやりとりする仕組みである「京都メカニズム」が議定書に盛り込まれました。
このメカニズムには、①温室効果ガスの排出量を売買する「排出量取引(ET=Emission Trading)」(先進国が国内対策だけでは目標が達成できない場合、他国から余った排出枠を買って埋め合わせるというもので、将来は20兆円を超える巨大な環境ビジネスに成長するとの見方が有力です)、②先進国間で相手国に資金や技術を援助して削減した場合、自国の削減分に組み入れる「共同実施(JI=Joint Implementation)」、③先進国が途上国の削減に協力して、成果の一部を自国の削減分に組み入れる「クリーン開発メカニズム(CDM=Clean Development Mechanism)」の3つの方法があります。
日本では省エネルギー対策は比較的進んでおり、さらなる省エネはなかなか難しく、それを実施するために多額の資金も必要です(温室効果ガスの削減コストは日本を1とすると、EUは0.8、米国0.6程度、途上国はさらに低いと言われています。あるいは日本で1トンの二酸化炭素を削減するのにかかるコストが125ドルであるのに対して、35ドルの欧州と比べて3.6倍高いとの試算もあります)が、一方、省エネ対策をこれまで本格的に進めてこなかった途上国に、日本の省エネ技術を持ち込めば、より安価で大量の温室効果ガスを削減でき、結果的に低コストで削減目標をクリアできる利点があるため、日本は6%の削減のうち、1.8%は京都メカニズムでまかなう計画だといいます。ただ、こうした「柔軟性措置」(Flexibility Measures)の範囲に関しては、限度枠(Sealing、シーリング)がはめられることとなりました。
京都議定書を批准するには、省エネや新技術開発など国内対策の強化が必要であり、中央環境審議会は「経済的措置」に加えて、①温室効果ガス排出量の公表制度、②省エネ機能や断熱住宅の優遇、③太陽光やバイオマスなど自然エネルギーの飛躍的促進、など複数の分野の政策を組み合わせた「ポリシー・ミック(Policy Mix)」を検討しています。一方、欧州で広がりつつあるのが、化石燃料に課税する「炭素税(Carbon Tax)」や、燃費の悪い車の税率を上げる「税制のグリーン化(Greening of Taxation)」などであり、自然エネルギーや低公害車などを相対的に買いやすくする政策が取られています。
(4)排出量取引(Emissions Trading)
「排出量取引」は、企業などが排出削減目標を達成できない場合に、予定以上に排出削減が達成できた企業から温室効果ガスの排出枠を買い取るのを認める仕組みです。京都メカニズムの排出量取引は「国際排出量取引」と呼ばれ、国内の事業者等を対象とした「国内排出量取引」とは区別されます。これによって、排出を削減するための費用と排出枠を買い取る費用を比較し、より安い方を選ぶことで、社会全体で低コストで温暖化防止効果を上げることが期待できるとされます。例えば、火力発電所や工場、運送会社、オフィスビルなどを対象に、企業ごとに温室効果ガスの排出枠を割り当て、それぞれの企業が与えられた枠と実際の排出量との差を売買します。米国では大気浄化法により、1995年から二酸化硫黄(SO2)の排出量取引が行われています。一定規模以上の発電能力を持つ火力発電所などが参加し、年に一度、シカゴ商品取引所で排出枠全体の2.8%分の分配を巡って取引が行われるのですが、残りの97.2%分は、仲介業者(ブローカー)を通じ、発電所間で相対取引されており、取引相場は1トンあたり1~3ドルで取引されています。これに対しては、「環境が安易に買える」という一種の「モラル・ハザード」(Moral Hazard=倫理無秩序)が発生するという批判があります。
2002年4月より英国で世界初の排出量の国内取引制度がスタートし、二酸化炭素1トンが1,500円程度で取引されています。日本企業もこれに参加していますが、仮に日本の必要削減量1億7700万トンをこの水準でまかなうとすれば、およそ2,600億円で調達できるのに対し、同じ削減量を省エネルギーのみで行う場合には10倍以上のコストが必要となるということです。
(5)パリ協定(Paris Agreement)
2015年、パリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(合意)。京都議定書以来、18年ぶりとなる国際的枠組みであり、気候変動枠組条約に加盟する全196カ国全てが参加する枠組みとしては史上初でしたが、2019年にアメリカ合衆国が正式に離脱を表明しました。
(6)家庭でできる10の温暖化対策(10 Ways to Prevent Global Warming at home)
環境省作成の「家庭でできる10の温暖化対策」とは次のようなものです。
①冷房を1度高く、暖房を1度低く設定。
②週2日往復8キロの車の運転を止める。
③アイドリングを1日5分ストップ。
④待機電力を90%削減。
⑤家族全員がシャワーを1日1分減らす。
⑥風呂の残り湯を洗濯に使い回す。
⑦炊飯ジャーの保温を止める。
⑧家族が同じ部屋で団らんし、暖房と照明を2割減らす。
⑨買い物袋を持ち歩き、包装の簡単な野菜を選ぶ。
⑩番組を選び、1日1時間テレビ利用を減らす。
環境問題読本③~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)酸性雨(Acid Rain)
自動車の排気ガスや工場の排煙に含まれる硫黄酸化物(SOx)や窒素化合物(NOx)が大気中で化学変化を起こし、pH(ペーハー:水素イオン濃度)5.6以下の酸性の雨や霧となって降ることを言います。このため、湖沼を酸性化させて魚類を死滅させたり、森林の枯死や歴史的建造物の腐食などが起こっています。主にヨーロッパで被害が大きく、中国でも被害が拡大しています。例えば、中国の工場の排煙が風や気流に乗って日本に酸性雨を降らすこともあり、公害問題の「汚染者負担の原則」が使えないことは一目瞭然です(汚染者を特定できません)。地球環境問題の最たる例の1つと言えるでしょう。
(2)砂漠化(Desertification)
国連環境計画(UNEP)によると、耕作可能な乾燥地域の70%、110ヵ国以上が砂漠化の影響を受けているとされ、過剰な草地での放牧や薪炭材の伐採、不適切な灌漑に伴う農地の塩害など、土地の再生力を超える使い方も原因と見られています。地球サミットで条約策定の道筋がつけられ、1994年に「砂漠化対処条約」を採択、日本も同年署名していますが、砂漠化の進行は食い止められていません。毎年600万ヘクタールが砂漠化し、これに伴う経済損失は420億ドル。10億人以上が生活を脅かされ、1億3500万人以上が難民化の危機に立たされていると言います。
(3)森林の減少(Deforestation)
熱帯を中心に問題となっているのが森林の減少です。国連食糧農業機関(FAO=Food and Agriculture Organization of the United Nations)によると、1990年代は毎年1460万ヘクタールの森林が減少する一方、再生は同520万ヘクタールにとどまり、10年で約9400万ヘクタールが消失したと言います。特に熱帯では天然林は毎年、日本の本州の面積の3分の2に当たる1420万ヘクタールが減少しており、熱帯林は世界の野生生物の半数が生息するとされ、その消失は生物種を減少させるだけではなく、森林が吸収した二酸化炭素を放出させるため、地球温暖化も加速させると見られています。
(4)エルニーニョ現象(El Nino Phenomenon)
南アメリカ大陸のペルーやエクアドルの沿岸から赤道沿いに、太平洋のほぼ東半分の海面の水温が例年より上昇する現象で、これが続くと、場所によっては大雨が降ったり、逆に干ばつになったりと、様々な異常気象が起きる可能性が高いと言います。「エルニーニョ」はスペイン語で「神の子」という意味で、逆に同じ海域でいつもより水温が下がる現象を「ラニーニャ現象」(「ラニーニャ」はスペイン語で「女の子」という意味)と呼びます。1993年にエルニーニョ現象が起きた時には日本では記録的な冷夏となり、東北地方では稲が実らないまま秋になるなど、損害は約9,000億円に上りました。2002年8月にドイツ、ポーランド、オーストリアなどの国々で150年ぶりの大洪水が起きて90人以上が死亡したのも、エルニーニョ現象が原因であると見られています。
環境問題読本④~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)オゾン層(Ozone Layer)
地上12~50kmにかけてオゾン(O3)が濃く滞留している層のことで、人体に有害な宇宙線の99%を吸収しているとされます。したがって、これが破壊されると大量の紫外線が地上に届くため、皮膚がん(skin cancer)や白内障が増加し、農作物の被害も懸念されます。従来、スプレーや冷蔵庫などの家電製品、半導体の洗浄等に使われていたフロン(Chlorofluorocarbon)によってオゾン層が破壊されていることが分かったため、1985年にウィーン条約(オゾン層保護のためのウィーン条約=Vienna Convention for the Protection of the Ozone)が、1987年にモントリオール議定書(オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書=Montreal Protocol on Substances that Deplete the Ozone Layer)が採択され、特定フロンは1995年末までに全廃されました。
(2)オゾンホール(Ozone Hole)
オゾン層のオゾン量が急激に減少し、穴のあいた状態になることを「オゾンホール」と言い、南極上空で顕著に見られましたが、2000年春、北極域で過去最大規模のオゾン量の減少が確認されたことが分かりました。これは欧州の研究機関や米航空宇宙局(NASA)を中心に日本などの研究者が参加して実施した集中観測によるもので、オゾンが最も多い高度18キロ付近で、オゾン量が2000年1月3月の間に60%以上減り、過去最高を記録しています。ノルウェーの研究者からも、2000年1月10日からの80日間に過去最高の73%減ったとの解析結果が発表されています。これで南極のオゾンホールだけでなく、北極域でのオゾン層破壊も大規模に続いていることが改めて確認されたことになります。
(3)フロン法(Act on Rational Use and Proper Management of Fluorocarbons)
2001年6月に、オゾン層破壊や地球温暖化の原因となるフロンの回収・破壊を義務づけるフロン法が成立しました。フロンは冷蔵庫やエアコンの冷媒、ビルの断熱材などに広く使われており、製品廃棄時に回収・破壊しないと大気中に放出され、オゾン層を破壊します。また、各種のフロンは二酸化炭素の数百~数万倍の温室効果を持ち、地球温暖化原因の約1割を占めると言います。そのため、温暖化防止のための「京都議定書」(1997年)は、未規制だった代替フロンも排出削減対象としました。フロン法によって、対象物質が100%回収されたとすると、温室効果ガス全体の排出量の約1%が削減できる計算になるとされます。
環境問題読本⑤~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)第三の地球環境問題(the Third Global Environmental Problem)
19世紀に物質を人工的に化学合成することを覚えた人類は、20世紀、おびただしい種類の化学物質を生み出した。その数は10万種と言われ、身の回りのあらゆる所に使われています。生活の利便や生産の向上など、様々な恩恵をもたらしたこうした物質の中には、ダイオキシンをはじめ、生殖機能への悪影響が指摘されている物質もあり、こうした環境ホルモン(外因性内分泌かく乱物質=Environmental Endocrine Disruptors)に対する社会的不安が高まっています。原因物質としては、除草剤・殺虫剤に用いられるDDT、アトラジン、アミトールなど界面活性剤のノニフェノール、プラスチックの原料のビスフェノールA、船底の塗料部分の有機スズ、またPCBやダイオキシンなど10数種が挙げられ、一説には72種類あると言われています。実際には謎だらけと言ってよく、当初、因果関係が実証されたのは「有機スズでメスの貝にオスの生殖器」「農薬汚染でオスワニの生殖器退縮」「合成洗剤分解物でオス魚がメス化」「農薬によって野鳥の繁殖率低下」の4例だけでした。
その後、ゴミ焼却場などで発生しやすい発ガン性物質ダイオキシンが、近隣に住む人の母乳の中から他地域の何倍もの量で検出され、旧文部省も1997年7月に学校内でのゴミ焼却を抑制・廃止するように通達しています。さらにディーゼル車の排ガスに含まれる微粒子(ディーゼル排気微粒子:DEP=Diesel Exhaust Particles、発がん性がある浮遊粒子状物質SPM=Suspended Particulate Matterの一種です。粒子状物質PM=Particulate Matterも人体に悪影響を及ぼします)も、オスのマウスの精子形成を妨げるのみならず、メスの流産を引き起こすことが明らかになっています。
そもそもこの問題が世界で注目されたきっかけは、1996年に米国で出版された『奪われし未来』(米国の女性科学者シーア・コルボーンら3人の共著)が告発したのが最初で、同著はDDTなどの農薬によって野性動物や人間に影響が出ていることを初めて警告した『沈黙の春』(1962年、米国の女性科学者レイチェル・カ-ソン)に次ぐ、「第二の『沈黙の春』」と呼ばれています。これは「大量生産・大量消費・大量投棄型」の社会構造が引き起こした問題であることは間違いなく、オゾン層破壊・温暖化に続く「第三の地球環境問題」という位置付けもされています。
(2)環境ホルモンの特徴と「新しい毒性」(Characteristics of Environmental Hormones and “New Toxicity”)
環境ホルモンとは、身の回りに存在する合成化学物質のうち、生物の体内に入るとホルモンに似た働きをするものを指します。女性ホルモン作用が注目されてきましたが、男性ホルモンや甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンのような働きをする物質もあると考えられています。本物のホルモンは次のような段階を経て働きますが、環境ホルモンはこのどこかの段階に作用し、余計な働きをすると考えられています。
①内分泌器官で作られる。
②内分泌器官に貯蔵され、必要に応じて放出される。
③血液で目的の場所まで運ばれる。
④ホルモン情報を細胞が受ける取り入れ口である受容体(レセプター)と結合する。
⑤その細胞に「たんぱくを作れ」「細胞分裂しろ」などの信号を出す。
例えば、女性ホルモンが結合すべき受容体に化学物質がつくと、その細胞は「女性ホルモンが来た」と勘違いして、体をメス化する働きをすると見られています。つまり、環境ホルモンの問題とは従来の毒性試験では見過ごされてきた「新しい毒性」なのであり、直接的に毒として働くのではなく、ホルモン受容体と結合したり、ホルモンの放出・輸送・合成の異常を起こしたりするというわけです。しかも、ごく少量でも影響が出、生殖異常の影響が世代を超えるというやっかいな性質も持っています。
(3)POPs(残留性有機汚染物質:Persistent Organic Pollutants) 条約
ダイオキシンやPCB、農薬のDDTなどのように残留性や蓄積性、毒性、長距離移動性が高い物質は「POPs」(残留性有機汚染物質)と呼ばれ、これらの物質は、生殖能力を低下させる環境ホルモン作用も指摘されています。また、大気や水で運ばれ、南北両極域の海洋生物に高濃度で蓄積していることが分かり、世界的な規制の必要が指摘されるようになりました。このため、国連環境計画(UNEP)は12物質をPOPsに指定し、製造・使用中止と削減を国際的に進める「POPs条約」を2001年に採択しました。
1950年代から1970年代にかけて様々な産業公害が社会問題化しましたが、発生場所や原因者がはっきりしており、規制や対策も比較的容易でした。しかし、POPsに代表される最近の化学物質の問題は、発生源も世界に散在し、影響も全地球規模に及んでおり、突き詰めれば、大量生産、大量消費、大量廃棄の生活様式を追い求めた現代人全体が生み出した問題とも言えます。
(4)ダイオキシン(Dioxin)
ダイオキシンは「人間が作り出した史上最強の毒物」と言われ、米軍がベトナム戦争の「枯葉作戦」で枯葉剤に使い、奇形児誕生の原因となった化学物質です。自然界には本来無かった猛毒で、塩素を含む物質を元に、プラスチックの焼却や紙の塩素漂白などの過程で発生する。環境中では分解されにくく、食物・飲み水を通して摂取することが最も多く、胎児に奇形を起こさせたり、発がん性を高めたりします。環境ホルモンのように脂に溶けやすい物質は、「食物連鎖」(Food Chain)が進むにつれて体内に蓄積され、濃度が高くなっていきます。日本人のダイオキシン摂取量の約6割が魚を食べることによるのも、魚による「生物濃縮」(Biological Accumulation)の結果です。また、牛乳は母乳と比べればダイオキシン濃度が低いのは、牛は牧草をエサとし、生物濃縮の段階が少ないからです。
日本のダイオキシンの9割はゴミの焼却によって発生し、このうちの8割余りが自治体の焼却場で、残りのほとんどが産業廃棄物処分場の焼却場からであるとされます。立ち上げ時など、燃焼温度が300~400度だと最も発生しやすく、発生を抑さえるには850度以上の炉温で連続運転させる必要がありますが、食べ残しの容器についた食塩やしょう油も原因になるとされ、有機塩素系の素材でできていない製品に切り替えることが一番の方法と考えられています。したがって、表示義務を課したり、プラスチック類をなるべく出さない、燃やさないライフスタイルへの転換が必要になってきます。2000年には、ゴミ焼却施設や各種の工場から出るダイオキシン類の大幅な削減を目指した「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行され、「耐容1日摂取量」(TDI=Tolerable Daily Intake、生涯摂取し続けても健康に問題がないとされる1日当たりの量)を体重1kg当たり4pg(ピコ・グラム、1pgは1兆分の1g)以下と定めています。現在の日本のダイオキシン対策は技術的には世界での高いレベルにあるとされますが、9割削減を達成しても日本の排出量は依然として世界一であり、単純な焼却処分からの脱却のために、リサイクル政策を一層強力に進めることが要求されています。今後は排出量動向の監視が重要となりますが、欧州では排出規制の次のステップとして、食品汚染への対策が注目されるようになっていると言います。
(5)ビスフェノ-ルA(Bisphenol A, BPA)
ビスフェノールAは合成樹脂や缶詰塗料などの原料で、1日数グラム以上が体内に入ると、女性ホルモンに似た生殖性が現れるとされます。日常生活の中でも微量摂取しており、人間の卵胞液や羊水中にも通常、1ミリリットル中に1~2ng(ナノ・グラム、1ngは10億分の1g)あることが確認されています。化学物質の毒性は濃度が低くなれば無視できるというのが常識ですが、この物質はこれまで無視されてきた安全基準値の10万分の1という極低濃度でも、マウスの胎児の前立せんを肥大させたり、生殖器形成に影響を与えることが分かっており、現在、人体の体内に存在するビスフェノールAより低い濃度でも影響が現れることが確かめられています。また、極めて低い濃度で人間の免疫機能を乱し、過剰になるとがんや老化につながると言われている「活性酸素」(active oxygen、活性酸素は多過ぎると細胞の遺伝子を傷つける危険性が高まり、その結果としてがんや老化の原因になると見られています)を増加させる可能性があることも分かっています。
(6)続々と明らかになる異変
①「ミッシング・ベビ-・ボ-イズ」(Missing Baby Boys、行方不明の坊やたち)
米医師会誌1998年4月号に掲載された世界資源研究所(ワシントン)のデブラ・デービス博士の論文で、「出生時の男女比が先進各国で変化しつつある」という指摘がされました。普通は女の赤ちゃん1人に対し、1.06人の男の赤ちゃんが生まれますが、イタリアの化学工場爆発事故(1976年)でダイオキシンが飛散した汚染地域では、事故の9ヵ月後から8年後の間に生まれた子供の男女比が、女48人に男26人と大きく偏りました。血液中のダイオキシン濃度があるレベル以上の両親(9組)から生まれた12人の子供は全員女の子だったそうです。この報告に興味を持ったデービス博士が男女比関連の論文を検索し、ここ2年間に欧米の複数の研究者が「男の子の出生比率が落ちている」と相次いで報告していることに気付いたということです。
②女児の発育が早まっている(Girls are developing faster.)
マウントサイト医大(ニューヨーク)のメアリー・ウォルフ教授の調査によると、女の子の第二次性徴が表れているかどうかについて110人の住民を調べたところ、9歳では白人は15~40%、中南米系では40%だけだったのに、黒人では70~80%に見られたと言います。また、従来はほとんど第二次性徴がないと言われてきた七歳の時点で、黒人女児の4人に1人の割合で性徴が見られた、という別の報告もあります。ウォルフ教授はアフリカ系住民の血中からは、DDTがヨーロッパ系(白人)の2倍も検出されていることから、DDTがホルモンバランスを崩し、第二次性徴を早めているのかもしれないとしています。
③男性の精子数が減少した(Decreased Sperm Count in Men)
デンマークのスキャベク教授が1992年に、文献から20ヵ国、約1万5000人分の精液データを取り出して分析し、「過去半世紀の間に男性の精子数が半減した」というショッキングな論文を発表して衝撃を世界に与えました。国内でも、非配偶者間人工受精(AID)のために提供された約2万5000人の精液のうち、6000人分のデ-タを中間集計した吉村泰典・慶応大学医学部教授(産婦人科)らの研究によって、ここ30年間に日本人男性の精子数が1割ほど減っていることが確認されています。
(7)レイチェル・カーソンと『沈黙の春』(Rachel Louise Carson and “Silent Spring”)
環境問題の古典とも言うべき『沈黙の春』は、農薬のために死の里と化した架空の町の描写で始まりますが、これは1962年6月に米「ニューヨーカー」誌に掲載されて、大きな反響を呼びました。カーソンが『沈黙の春』を書くきっかけとなったのは、ニューヨーク州ロングアイランドの住民グループが1958年2月に起こした訴訟でした。これは前年に米農務省は北部の広範な地域でマイマイガ駆除のため、農薬DDTの大々的な散布に乗り出しており、その結果、有機栽培の野菜が空からの農薬散布で真っ白になり、やがて芝生の野鳥の死骸が散乱し、川では魚が浮き、バッタ、ミツバチも息絶えるという事態に至ったことに対する訴訟でしたが、最高裁で住民敗訴となってしまいました。しかし、この裁判が残した膨大な訴訟資料はカーソンによって『沈黙の春』に結実し、米国だけで300万部を超すベストセラーとなるのです。その警告は着実に社会に浸透して行き、ケネディ政権では大統領科学諮問委員会が農薬使用の監視、規制強化の必要性を認める報告をまとめ、ニクソン政権では全米の環境行政を統括する環境保護局(EPA=Environmental Protection Agency)が設立され、そして1972年になるとDDTは全面禁止となって、農薬の毒性情報の開示とEPAへの登録が義務付けられるに至るのです。『沈黙の春』の改訂版(1994年)の序文で、アル・ゴア前副大統領は「『沈黙の春』は歴史を変えた。この本が無ければ、環境運動は遅れたか、始まらなかったかもしれない」と称えています。
また、「化学物質を野放しにしてはいけない」というカーソンらの訴えは、「バーゼル条約」「環境汚染物質排出・移動登録制度」といった国際的な管理システムとして実を結びつつあることも特筆されます。
(8)シーア・コルボーンと『奪われし未来』(Thea Colborn and “Our Stolen Future”)
カーソンが自然の外界の異変を指摘したとすれば、生体内の異変に着目したのが世界自然保護基金(WWF=World Wide Fund for Nature)顧問シーア・コルボーンです。彼女等の呼びかけによって、1991年7月に米ウィスコンシン州レイシンに世界から人類学、動物学などの研究者21人が集まり、そこで歴史的な「ウィングスプレッド宣言」を発表しました。これは「野生生物を脅かしているホルモンかく乱物質が人類の未来をも危険にさらしている」というもので、いわゆる環境ホルモン問題に注意が向けられた最初です。やがて、コルボーンらは1996年に「ウィングスプレッド宣言」を元に『奪われし未来』をまとめ、食物連鎖を通じて動物や人体に蓄積するPCB、ダイオキシンなどの化学物質の脅威を明かにしたのです。ちなみに同書は、環境問題研究のノーベル賞とも言われている「ブループラネット賞」を日本の財団から受賞しており、36の米国の大学で教科書に使われ、18の言語に翻訳されていると言います。
環境問題読本⑥~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)レッドデータブック(Red Data Book)
絶滅の恐れがある野生動物をリストにして、その分布や生息状況を詳しく紹介するガイドブックのことで、「危機」を意味する赤い表紙からこのように呼ばれています。1966年に国際自然保護連合(IUCN=International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)が作成し、この本に掲載されたリストを「レッドリスト」と言います。それによると、世界では4万2000種以上が「絶滅危惧種」に分類されており、日本でも3,700種以上が「絶滅危惧種」に分類されています。
(2)ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約=Convention on Wetlands of International Importance Especially as Waterfowl Habitat)
1971年に締結され、1975年に発効しています。現在、締約国は170か国以上、条約で保護が定められた湿地は世界で2300か所以上になります。日本では釧路湿原に始まり、50か所以上が保護対象となっています。
(3)世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約=Convention concerning the Protection of the World Cultural and Natural Heritage)
1972年に国連ユネスコ総会で採択されました。日本では自然遺産(Natural Heritage)として屋久島、白神山地、知床、小笠原諸島、奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島など、文化遺産(Cultural Heritage)として法隆寺地域の仏教建築物、姫路城、古都京都の文化財、白川郷・五箇山の合掌造り集落、原爆ドーム、厳島神社、古都奈良の文化財、日光の社寺、琉球王国のグスク及び関連遺跡群、紀伊山地の霊場と参詣道、石見銀山遺跡とその文化的景観、平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-、富士-信仰の対象と芸術の源泉-、富岡製糸場と絹産業遺産群、明治日本の産業革命遺産-製鉄・製鋼、造船、石炭産業-、ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-、「神宿る」宗像・沖ノ島と関連遺産群、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産、百舌鳥・古市古墳群―古代日本の遺跡群ー、北海道・北東北の縄文遺跡群、佐渡島の金山などが登録されています。
(4)ワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動物の種の国際取引に関する条約:Washington Convention, CITES=Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)
1973年に採択され、絶滅の恐れがある動植物を次の3種類に分けて、国際取引を規制しています。
①絶滅の恐れの高い動植物(ゴリラ、ジャイアントパンダ、トラ、アフリカゾウ、チンパンジー、一部のサボテンなど)
ペットにしたり、売買することは禁止されています。学問研究のためなら取引はできますが、その動植物がいる国の許可が必要です。
②今すぐに絶滅することはありませんが、取引を規制しないと絶滅の可能性がある動植物です(ホッキョクグマ、カメレオン、サボテン、ラン、アロエなど)。
動植物がいる国内での売買は可能ですが、国外への持ち出しにはその国の許可が必要です。
③自国で希少種のため、国ごとの考えで保護の対象とする動植物です(セイウチ、アジアスイギュウなど)。
動植物がいる国内での売買は可能ですが、国外への持ち出しにはその国の許可が必要です。
(5)ロンドン条約(廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約=London Convention)
海洋環境を守るため、船舶等からの廃棄物や汚染物質の排出を規制(特に放射性廃棄物の海中投棄防止を目的としています)する条約で、1972年に採択され、1975年に発効しました。
(6)エコマーク(Eco-mark)
「エコラベル」とも言います。環境にやさしい商品や資源の再利用商品に付けられるマークで、1978年にドイツで誕生した「ブルーエンジェル」が最初です。これを参考にして、日本でも1989年に発足し、日本環境協会が認定しています。
(7)バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約:Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and Their Disposal)
イタリア・ミラノの化学工場で1976年に起きたダイオキシン放出事故(3万人以上がダイオキシンを浴びた)の事後処理がきっかけとなったもので、「有害廃棄物の越境移動を国際的に監視する」「廃棄物は発生国で処分する」ことなどが盛り込まれています。1992年に発効。現在、約190か国が参加しており、特定有害廃棄物を制限対象として自国内処分を原則とし、他国に引き取ってもらう場合には、事前に相手国の同意を得なければならないとしています。
(8)生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)
1992年の地球サミットの成果の1つで、先進国の資金により開発途上国の取組を支援する資金援助の仕組みと、先進国の技術を開発途上国に提供する技術協力の仕組みがあり、経済的・技術的な理由から生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組が十分でない開発途上国に対する支援が行われることになっています。生態系、種、遺伝子の各レベルで保全を図り、遺伝資源から得られる利益を公正に配分するという、「環境」と「経済」の両面を持っています。生物多様性に富む地域は熱帯林などがある途上国に多く、土地の利用変更や気候変動、汚染物質、外来種の導入、国際紛争などが生物の多様性を失わせる要因とされています。
(9)環境汚染物質排出・移動登録制度(PRTR=Pollutant Release and Transfer Register)
インド・ポパール市の農薬工場で起きた猛毒物質漏出事故(3,300人が即死)がきっかけとなったもので、越境監視だけでなく、化学物質の利用、排出状況全体を監視するとしています。具体的には、あらかじめ登録された化学物質を企業が使用したり、廃棄したりする場合、全ての量を記録する義務を課し、行政はこれをデータベース化して社会に公開するため、従来は企業の壁に覆われていた化学物質の実態を自治体や市民も把握する画期的なものとされます。
(10)環境アセスメント(環境影響力評価=Environmental Assessment)
事業者が事業を行う前に、あらかじめその事業が環境に与える影響について、調査・予測・評価を行って、その結果を公表し、市民や地方自治体などの意見を参考にして、その事業を環境保全上、より望ましいものにしていく仕組みを言います。1999年に施行された環境影響力評価法(環境アセスメント法)や自治体の条例に基づいて実施されます。
(11)アメニティ(Amenity)
心地よさや快適さの度合いのことです。現代社会ではアメニティを重視した地域づくりが進められています。
環境問題読本⑦~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)環境税(Environmental Tax)
環境税は、財の生産に伴って生じる外部費用を課税により価格に上乗せし、生産量を経済厚生上最適な水準に調整しようとするもので、提唱者にちなみ「ピグー税」と呼ばれます。
世界で最初に炭素税を導入したのはフィンランドで、1990年1月に導入して注目されました。1998年には税率が引き上げられており、ガソリン、軽油、重油、天然ガス、石炭などの他に電力消費税があります。これに遅れること1ヶ月で導入に踏み切ったのがオランダです。もっともオランダの場合は、これに先立って1988年に環境課徴金制度があり、1990年には一般燃料税という形になり、さらに1996年からはエネルギー規制税と姿を変えてきています。さらにノルウェー、スウェーデン、デンマーク、イタリア、ドイツ、イギリスとEU諸国では導入が相次いでいます。これらの税収は全て一般財源になっており、使用目的を特定されない普通の税収というわけですが、日本のガソリン税のほとんどが道路財源になっているのと対照的と言えるでしょう。
(2)環境会計(Environmental Accounting)
企業経営の方針や内容を環境面から評価し、利害関係者のみならず、社会全体に対して説明責任を果たしていくための新しい会計制度です。具体的には、支出=「企業が環境対策にかけた費用」と収入=「それによって生じた効果」を主に金額で表す会計手法で、商品のリサイクル、地球環境への負荷低減策、公害防止対策などの費用が支出に当たり、節電によって削減できた電気代、リサイクル品の売却代、商品の付加価値アップなどが収入に当たります。1990年代半ばから欧米の有力企業で導入が進み、日本でも1999年から富士通やソニー、トヨタ自動車などが公表し始めました。背景には、環境に配慮した経営が重要となり、導入の有無が企業評価や格付けの基準になりつつあるという事情があります。旧環境庁は2000年5月に環境会計のガイドラインを発表したため、導入にはずみがつき、導入の動きは、産業界だけでなく自治体にも広がりました。2000年6月には、ガイドラインに沿って、全国の自治体では初めて神奈川県横須賀市が1998年度の環境会計を公表し、東京都の水道局も2000年から導入しています。
(3) ISO14001
ISO14001(EMS)とは、環境マネジメントシステム(Environmental Management System) に関する国際規格です。自社の経営活動における環境リスクを調査・分析し、そのリスクや環境負担を低減・改善するためのフレームワークとして、様々な業種において認証取得が進められています。ISO(国際標準化機構=International Organization for Standardization、本部ジュネーブ)は、工業製品や部品の形状や寸法などの規格を国際的に標準化することを目的に1947年に設立された民事機関で、130か国以上が参加しています。言ってみれば、JIS(日本工業規格)の国際版みたいなものですが、14000番台は工場や事業所での環境管理・監査の規格を示しており、14001は1996年9月に制定されました。
環境問題に積極的な取り組みをしていることへの国際的な「お墨付き」とも言えるISO14001の認証を受ける事業所が増えています。大手メーカーだけでなく、中小企業からサービス業、さらには自治体や大学まで、様々な分野に広がっているのが最近の特徴です。世界的に見ても、日本はISO14001の認証を取得する事業所がずば抜けて多く、世界の取得企業数のうち、日本の取得企業数は約6割を占めています。
環境問題読本⑧~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)「大量生産・大量消費・大量廃棄」(MassProduction,MassConsumption,MassDisposal)から「省エネルギー・適正消費・リサイクル」(EnergySaving, AppropriateConsumption, Recycling)へ
「循環型社会」(Recycling-oriented Society)の実現という「環境立国」(Building an Ecologically Sustainable Society)」の道が叫ばれていますが、ここでも福祉同様、ドイツや北欧が大いに参考になるとされています。
例えば、ドイツでは戦後50年間をかけて電線の90%以上を地中に埋める作業を完了し、ゴミ問題に対しては1996年に「環境経済・廃棄物法」を制定しています。ここではゴミを出さないことを第一に掲げており、やむを得ずゴミが出るなら再利用する、どうしても無理な場合にだけ処分するという優先順位をつけています。また、役割を終えたテレビや冷蔵庫、車などについては製造企業に回収させ、再利用させようとしているのが特徴で、回収責任が企業にあれば、製造段階でゴミにならないように工夫すると期待されています。ドイツでは容器包装廃棄材の80%がリサイクルされており、18種類にゴミを分別する地域もあります。ドイツ環境省に発表した統計では、ゴミの量は減ってきており、処分場は十分な余力があると言います。
これに対して日本では、リサイクル率はアルミニウム缶が約98%で、ペットボトルは約87%ですが、処分場の慢性的不足、周囲の環境汚染、不法投棄問題などが深刻です。家庭から出るゴミも産業廃棄物は増えており、処分場の余力も乏しく、さらに産廃処分場の建設問題をめぐって全国で紛争が起きています。また、アメリカでは環境ビジネスが市場として開拓されつつあり、世界に攻勢をかけていますが、ここでも日本は大きく遅れをとっています。
(2)循環型社会の構築のための3R
①リデュース(Reduce)=包装の簡略化のように無駄なものを省くこと。
②リユース(Reuse)=まだ商品価値のある物を再使用すること。
③リサイクル(Recycle)=素材やエネルギーとして再利用すること。
循環型社会形成促進法(Basic Law for Establishing a Recycling-based Society、2000年制定)によって、廃棄物処理の優先順位が「発生抑制(リデュース)」―「再使用(リユース)」―「再利用(リサイクル)」―熱回収―適正処分と法定化され、特にリサイクルに関しては、容器包装リサイクル法(1997年施行)、家電リサイクル法(2001年施行)や自動車リサイクル法(Law Related to the Recycling of End-of-life Vehicles、2002年成立)の整備が着実に進んでいて、社会的認知も定着していると言えますが、リサイクルの前により環境負荷が小さいリユースの重要性がもっと強調されるべきであると指摘されています。例えば、冷蔵庫を家電リサイクル法に従って処理した場合、遠方の処理工場まで運搬し、フロンガスを回収した上で粉砕し、原料として再利用するのですが、運搬と処理に大きな環境負荷と費用が発生します。一方、リユースの場合は最寄りのリサイクルショップが回収すれば、運搬は最小限で済み、清掃・部品補充・動作チェックを行なって再商品化されるため、処理コストも極めて小さいのです。そもそも粉砕しないため、大規模な処理プラントやフロンガスも不要だというわけです。これはペットボトルのリサイクル率は向上しているにもかかわらず、廃棄される量はむしろ増えているという例に見られるような「リサイクルの限界」に対して、新しい動きを示すものとされています。
いずれにせよ、大量に物を使い、捨てる「使い捨て経済」の社会から、3Rが浸透した「循環型社会」への移行はまさに日本の構造改革の過程ですが、それは消費抑制ではなく、本当に使う価値のある所へお金を向けさせ、新たな消費を生むのであるという認識を新たにする必要があるでしょう。
(3) 環境問題の課題
① 社会と個人の意識変革
「環境教育」を本格的に導入した「環境立国」の道を取り、個々人においても身近なゴミの分別(「分ければ資源、混ぜればゴミ」と言われます)、リサイクル活動の推進、買い物袋持参といったことから、「人間と自然との共生」という意識を育てていく必要があります。
(1)グリーン・コンシューマリズム(Green Consumerism)
消費者が企業に対して環境に良い行動を要求し、消費者自身も環境にやさしい消費生活を営もうとする運動です。
(2)ナショナル・トラスト(National Trust)
住民が開発や公害から自然環境や歴史環境を守るために、土地や文化財を買い取ったり、寄贈を受けたりして、それらを保存する運動です。
(3)エコファンド(Eco-Fund)
環境への取り組みなどの観点から企業を評価し、環境対策を行なっている企業の株式に集中的に投資する投資信託です。
(4)拡大生産者責任(EPR=Extended Producer Responsibility)
OECDが名づけた概念で、製造物に対する生産者の責任を製品の生産から使用(廃棄)後まで拡大する制度です。この考え方はこの言葉ができる前から実践されており、その最初は1991年のドイツの包装廃棄物政令だとされています。
(5)無過失責任(Liability without Fault / Absolute Liability)
故意、過失の有無にかかわらず、損害が発生すれば、その責任を負うこと。近代市民法では「過失責任主義」を原則としてきましたが、危険を伴う高度な科学技術を利用した企業などが出現するに及び、損害発生時に加害者の過失を立証することが容易ではなくなり、被害者救済が不十分となってきたため、「無過失責任主義」が導入されることとなりました。具体的に公害についてどこまで「無過失責任主義」が取れるかが問題となりましたが、1972年に大気汚染防止法、水質汚濁防止法が改正されて、事業者の無過失責任が認められました。また、1995年に施行された製造物責任法(PL法=Product Liability Act)は、製造物の欠陥に関わる被害について、無過失責任法理を導入したことで知られています。
(6)自然の権利訴訟(Rights of Nature Litigation)
自然環境を保護するために動植物や土地を原告として裁判を起こすことです。アメリカで始まり、日本でも1995年に奄美大島のゴルフ場開発計画に対し、アマミノクロウサギを原告とするアマミノクロウサギ訴訟が起こされたのを皮切りに、全国で自然の権利訴訟が起こされています。
②代替物質の開発とゴミを出さない社会作り(Development of Alternative Materials and Creating a Society that does not produce trash)
日本をはじめとする高度経済成長を遂げてきたハイテク先進国家は、従来、自然の開発と利用にフル活用してきた技術力を、今度は環境保全や有害物質を生まない代替物質の開発に振り向けるべきであると指摘されています。現在では、徹底的にゴミ問題に取り組んできた環境先進国ドイツのように、ゴミを出さないことを第一とし、止むを得ずゴミが出るなら再利用し、どうしても無理な場合にだけ処分するといった優先順位を設け、製造企業に回収責任をもたせて、製造段階でゴミが出ないような工夫をさせるといった法整備も進んできています。また、環境ビジネス(環境産業=Environmental Industry、エコビジネス)の発達も、環境立国推進の見逃せない要因となるでしょう。
(1)環境基本法(the Basic Environmental Law)
公害対策基本法(1967年成立)を発展解消させて、1993年に成立。地球環境問題に対応する内容となっています。また、公害防止や自然保護など公害対策を一元化させるために1971年に発足した環境庁も、2001年に環境省に昇格しています。
(2)グリーン購入法(Act on Promoting Green procurement)
国や地方公共団体に対して、環境に配慮した商品の調達を義務付けた法律です。2001年施行。
(3)ゼロ・エミッション構想(Zero-emission Concept)
廃棄物を出さない製造技術の開発を目指す計画で、産業の製造工程から出るゴミを別の分野の産業の原料にすることなどで、資源の消費を抑え、廃棄物を最少化しようとしています。国連大学が提唱して1994年4月にスタートしました。
(4)エコタウン事業(Eco-town Project)
環境・リサイクル産業育成と地域振興を結びつけた事業のことで、1997年に創設されました。2002年現在で、北九州市など16地域が承認を受け、取り組みを進めています。
(5)アスベスト(asbestos、石綿)
吸入することで肺がん・悪性中皮腫などを発症することがあるため、2006年にアスベスト健康被害救済法が施行されました。
環境問題読本⑨~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
(1)環境教育の現状(Current State of Environmental Education)
地球温暖化、オゾン層破壊、砂漠化など地球環境は刻一刻と悪化していますが、地球を守り、環境に配慮した行動ができる次の世代を育てようと、環境教育の重要性が各国で叫ばれ始めています。環境教育の先進国としてはドイツ・イギリスが挙げられ、環境科という独自の授業時間を設けた韓国も注目されています。
例えばドイツでは、日常生活のあり方を重視した「実践重視」の取り組みが特徴であり、連邦政府や各州の環境政策も大きな支えとなっています。教科で環境をどう教えるかという位置づけも明確であり、1980年に連邦の文部大臣会議が「環境教育は教科にまたがる包括的な授業目標となるべきだ」と宣言し、これを受けて各州は環境の視点を科目計画に入れることを指導計画に明示するようになっています。教科書にも環境のテーマが積極的に取り入れられるようになったのです。また、韓国では『環境』の国定教科書と教科用指導書も作られ、高校の選択科目にも「環境科学」が導入されています。日本でも少しずつ取り組みは広がっていますが、まだ先生個人の努力に頼っている部分が少なくないのが現状です。中央教育審議会も「二十一世紀を展望した教育のあり方」の第一次方針で、環境教育を人類共通の課題として位置付けていますが、現場はまだとまどっているという声も聞かれています。幼児期からの体系的な環境教育を構築するための研究期間が必要であり、教員養成課程を見直して、環境への視点を身につけた教師をどの教科でも育てる必要があると指摘されています。
環境専門家達によるベオグラード憲章(Belgrade Charter)は、環境教育の目的を「人間同士や、人間と自然の関係を改善すること」と確認し、生き方の転換を促しています。それは「この地球に生きる他の人々と、利用したり競ったりの関係ではなく、共にあることを楽しむ関係に変えること」であり、「自然に対しても、利用し克服する対象から、多様性を受け入れ支え合う関係へと変えること」としています。環境を気遣うことは、人権や平和への配慮とも深く結びついており、自分を変え、社会を変えるきっかけを先生にも子供達にも与える環境教育が根付くならば、地球環境保全は身近な問題になると期待されているのです。これは「宇宙船地球号」の一員として、避けることのできない問題の一つでしょう。
(2)エコ・リテラシー(Eco-literacy)
「リテラシー」とは基本的読み書き能力のことで、転じて基本的理解・知識の意味で、例えば「情報リテラシー」といった造語が生まれています。これが環境問題に適用されたのが、「エコ・リテラシー」という概念で、多様な生物がバランスよく共生する自然界の仕組みを理解し、資源を無駄遣いする生活を改めることができる能力、という意味で使用されています。これは『タオ自然学』で一躍ニューエイジサイエンスの旗手となった米国の物理学者フリッチョフ・カプラの造語であり、日本には福沢諭吉のひ孫に当たる木内孝・三菱電機顧問(環境団体「フューチャー500」代表)が『新・学問のすすめ』(プラネット出版)で紹介しています。
(3)環境教育プログラム「キッズISO」(Environmental Education Program, “Kids ISO”)
身近な生活の中で環境への配慮を子供達に学ばせる「キッズISO」は、NPO「国際芸術技術協力機構」(ArTech)が国連大学の支援を受け、子供達が生活の中で環境保全を実施する手引きとして2000年に作成したものです。企業などが取得する国際的な環境マネジメント規格「ISO14001」の考え方を踏襲しており、①環境負荷の状況把握、②改善作戦の立案、③作戦効果の評価、の3ステップの作業を繰り返す仕組みになっています。同機構によると、入門編に参加した子供の8割、保護者の6割が「環境問題への意識が向上した」と回答しており、電気・ガス・水道使用量などの変化を二酸化炭素排出量に換算すると8~15%の削減効果があったと言います。このため各国の環境団体などから問い合わせが相次ぎ、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)と国連環境計画(UNEP)の推薦プログラムとして国際的に展開されています。温室効果ガス削減の民生部門での対策の手がかりとしても注目されているとも言われています。ちなみにキッズISOの内容は次のようなレベルからなっています。
(1)入門編
活動範囲・対象:自分の家。
主な特徴:環境マネジメントの体験。データ収集、改善計画立案などの流れをつかむ。
期間:2週間。
(2)初級編
活動範囲・対象:自分の家。
主な特徴:家庭での環境マネジメント。2週間ごとに目標設定、到達度を評価する。
期間:2ヵ月。
(3)中級編
活動範囲・対象:学校や地域。
主な特徴:グループ・マネジメントに取り組む。大気汚染、騒音などにも対象拡大。
期間:1年間。
(4)上級編
活動範囲・対象:国、地球規模。
主な特徴:国際的な連携。海外グループとデータ交換し、世界の環境を分析。
期間:2年間。
(4)環境倫理(Environmental Ethics)
アルド・レオポルド:土地倫理~個人間で成り立つ倫理の範囲を「土地」にまで拡張しました。
ハンス・ヨナス:世代間倫理の先駆者。人間は未来世代と自然の存続に責任を持ち、環境破壊を止めなければならないとしました。
世代間倫理:現在、生きている世代はまだ生まれていない未来の世代の生存に対して責任を持つという考え方です。
ケネス・ボールディング:アメリカの経済学者。地球が閉鎖的システムであることを指摘し、「宇宙船地球号」と表現しました。
ピーター・シンガー:動物解放論~動物の苦痛を考慮しないのは種差別であるとしました。
ギャレット・ハーディン:共有地の悲劇~個人の利益追求が最終的に全ての破滅をもたらすとしました。
環境問題読本⑩~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
①『失われた森~レイチェル・カーソン遺稿集』(リンダ・リア編、集英社文庫)
本書はアメリカの環境史の教授リンダ・リアが編んだカーソンの遺稿集です。カーソンの『沈黙の春』は余りにも有名で、「不気味な沈黙が漂っていた。そういえば鳥たちはどこへ行ったのか」「春の声を沈黙させたのはいったい何だろう」というくだりは忘れ難いところです。ここから化学物質による環境汚染が本格的に告発されたのであり、今日の環境保護活動のきっかけとなり、エコロジーへの関心も一気に高まっていきました。歴史を動かした力作の底にあるのは、地球のすばらしさは生命の輝きにあるという強い思いと、生命に対する畏敬の念であり、その思いを支えているのが「センス・オブ・ワンダー」(sense of wonder、神秘や不思議に目を見張る感性)です。カーソンは自然を間近から隅々まで丁寧に観察することで、いつも新鮮な驚きを感じ、そこから生命の輝きを捉えているのであり、この感性を子供達に期待しようと言っています。本書は「環境の時代」となるこれからにおいて、基本的な拠り所になると目されています。
②『奪われし未来』(シ-ア・コルボ-ン、ダイアン・ダマノスキ、ジョン・ピ-タ-ソン・マイヤ-ズ共著、翔泳社)
いわゆる「環境ホルモン」問題は、1996年に米国で出版された本書の告発から全て始まっています。環境問題の古典として欠かせないのが、1962年に米国の女性科学者レイチェル・カ-ソンが著わした『沈黙の春』で、DDTなどの農薬によって野生動物や人間に影響が出ていることを初めて警告し、大変な反響を呼んだため、学校の教科書などにも多く取り上げられるようになりましたが、『奪われし未来』はこれに次ぐ、「第二の『沈黙の春』」と評価されています。
③『レイチェル~レイチェル・カーソン 沈黙の春の生涯』(リンダ・リア、東京書籍)
自然科学者として科学の毒性に直面し、技術文明に警告を発したレイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、今や環境保護運動のバイブルとなっていますが、本書はここに至るレイチェルの公私こもごもの苦闘の跡を、年代記的克明さで追っています。レイチェルは相次ぐがんの転移に見舞われつつ、政府、産業界、同僚からの露骨にして陰湿な無視、妨害、時としてセクハラと言える嫌がらせを受けながら、『沈黙の春』を完成させたのでした。著者は米ジョージ・ワシントン大学研究教授(環境史専攻)で、レイチェル研究の第一人者です。
④『エコ・エコノミー』(レスター・ブラウン、家の光協会)
ワールドウォッチ研究所を設立した著者が、地球環境の異変を紹介しており、「人類は地球を救うための戦略レベルでの闘いに敗れつつある」としています。例えば、中国の場合、「黄河は1997年には226日間、海に注がなかった」「北京市の地下水位は1965年以来、59メートル低下し、中国北部は干上がりかけている」「北西部を中心に年間数百万トンの表土が失われ、砂漠化し、2001年には史上最大規模の黄塵(こうじん)あらしが発生した」と指摘しており、世界が持つべき共通の明確なビジョンとして「エコ・エコノミー」(Eco-economy)、つまり「環境的に持続可能な経済」(Environmentally Sustainable Economy)の実現を強調しています。
著者は営利中心の経済ではなく、自然の生態系と調和する「環境コスト」(Environmental Cost)を織り込んだ経済に向かうしかないと述べ、所得税を減税し、環境に負荷の大きい生産と消費に課税する税制改革を訴えています。
⑤『胎児の複合汚染~子宮内環境をどう守るか』(森千里、中公新書)
作用不明な合成化合物は日々大量に世界中で作り出され、環境に放出されていますが、単独では無害に見える、幾つもの異なる物質が混ざり合った時、初めて毒性が現われることもまれではないとされます。これが「複合汚染」(Compound Pollution)です。こうした物質に一番敏感なのは受胎間もない胎児であり、化学物質の安全基準は一番「強い」成人への毒性を基準にしていて、育ちつつある胎児への影響という視点がほとんど無いと指摘されています。
胎児にとっては子宮が全てであり、大人にとっての地球環境に対比できる、胎児にとっての環境世界と言えますが、このインナースペースの汚染はすでに進行中であり、著者は「この問題で健康への影響が本当にあらわれるのは、今生きているわれわれではなく、次の世代やその次の世代と考えられており、子孫に負の遺産を残さないためにも、価値観の転換とそれを伝え実行していく教育体制の整備が必要と考えられる」と警告しています。こうした観点から、「環境健康予防医学指導士」という制度を設け、胎児を環境ホルモンや汚染物質から守る予防医学の行政システムを築くべきであるというのです。
環境問題読本⑪~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
【例文1】
Noise is one of the aspects of environmental pollution that certain human beings come to tolerate, but at great cost. People adapt to continuous exposure to loud and painful noise by shutting out the objectionable sounds from perception. This, however, does not prevent destructive physiological effects from taking place. There may be an impairment of hearing――a permanent inability to hear certain frequencies. The cost of adaptation to noise is therefore a loss in the enjoyment of music and of the more subtle qualities of the human voice.
Adaptation to crowding may also have unfortunate results in the long run. Admittedly, man is an animal who commonly seeks crowded environments. But this does not mean that man can indefinitely increase the density of his populations; it means only that the safe limits are not known. In animals, crowding beyond a certain level results in behavioral and even physiological disturbances. Man has generally avoided the worst of these disturbances through a variety of social and architectural conventions and especially by learning to develop psychological unawareness of his surroundings. In extremely crowded environments each of us lives――as it were――in a world of his own. But eventually this adaptation to crowding decreases man's ability to relate to other human beings. He may become unaware of their presence and totally antisocial.
【語句】
aspect(様相、側面)、tolerate(許容する) 、adapt(to~に適応する) 、continuous(連続的な、継続的な)、exposure(さらされること)、objectionable(苦痛を与える、不快な)、perception(知覚、認知)、prevent A from doing(Aが~することを妨げる)、physiological(生理的な)、subtle(微妙な)、in the long run(長い目で見れば)、admittedly(自らが認めているように、明らかに)、indefinitely(無期限に)、density(密度)、behavioral(行動の)、disturbance(障害)、architectural(建築の)、convention(慣習)、psychological(心理的な)、unawareness(意識しないこと)、as it were(いわば)、eventually(結局は)、decrease(~を減らす)、presence(存在)、antisocial(人間嫌いな、非社交的な)。
【訳文】
騒音は環境汚染の様相の1つであって、ある種の人々はそれを許容するようになっているが、しかしそのためには大きな犠牲が払われている。人々は嫌な音を知覚から排除することによって、苦痛を与える大きな音に絶えずさらされることに適応している。しかし、このようにしても、生理的な面で破壊的な影響が及ぶのを避けることはできない。聴覚の障害――ある周波数の音が永久に聞こえなくなること――が生ずるかもしれない。その結果、騒音に適応したために、音楽が鑑賞できなくなったり、人間の声質の微妙な差異を楽しむことが不可能になったりするという犠牲を払うこととなるのである。
過密状態に適応することも、長い目で見れば不幸な結果を招来するかもしれない。なるほど人間は普通群居の環境を求める動物ではあるが、こう言ったからとて人間がどこまでも人口密度を増大させてゆけるわけではない。安全性の限界がどこまでか知られていないというだけのことである。動物の場合、過密状態がある水準を越えると、その結果として行動の面やさらには生理的な面にまで障害が生じる。人間は一般に、この種の障害のうち最悪のものを、様々な社会的慣習や伝統的建築により、また特に周囲のものを心理的に意識から排除するようになることで避けてきた。極度の過密状態の中にあっても、一人一人の人間は、いわば自分個人の世界の中に閉じこもっているのである。しかし、過密状態へのこのような適応の仕方は、結局は人間が他の人間と交渉する能力を損なうことになる。人問は他の人間の存在を意識しなくなり、完全に人間嫌いになる可能性があるのである。
【例文2】
We know something about greed, not much but a little. The greedy man is a
man who is trying to fill up a hole inside himself, to make up with wealth,
position, esteem, and power for his lost sense of his own worth. The greedy
man is also likely to be a vengeful one, always trying and failing to score
off someone, or the whole world, for some past injury or wrong. The lumber
baron who strips a hillside of red-woods, the steel magnate who destroys
the dunes at the foot of Lake Michigan to make room for a new steel mill,
the company manager who fills the air or the waters around him with poison,
and the tourist who throws a beer can and a paper bag full of garbage out
his car window, are all alike in one important respect: in some part of
their minds they are all saying, “There, you bastards!” Their lives are a
kind of war that they can never win or end, because they don't know what it
is they are lacking, or where or how to find it. They can never have
enough; the hole inside can never be filled. The problem of education is to
help children grow up without these unfillable holes, this merciless need
to eat up the whole earth. It's not a question of doing away with greed,
some of which is natural, but of having some kind of reasonable limit to
it. The owner of a renowned sporting goods store is reported to have once
said, when someone told him that with a little effort he could triple his
business, “What for? I can't eat four meals a day.” Just so; enough is
enough.
【語句】
greed(貪欲)、greedy(貪欲な)、make up for(~の埋め合わせをする)、esteem(尊敬、尊重)、sense of one’s own worth(自尊心)、vengeful(復讐心に燃える)、score off(~をやっつける、やりこめる)、injury(損害、障害)、wrong(悪、悪事)、lumber(木材)、baron(男爵、封建領主)、strip(~を裸にする)、hillside(山腹)、red-wood(アメリカ杉、セコイア、セコイアメスギ)、steel(鉄鋼)、magnate(有力者、大実業家)、dune(砂丘)、mill(工場、製造所)、poison(毒)、alike(似ている)、bastard(しばしば怒りや不快を示す。くそったれ)、unfillable(埋めることのできない、満たすことのできない)、merciless(無慈悲な、無情な)、eat up(~を食べ尽くす、使い果たす)、do away with(~を捨てる、廃止する)、renowned(有名な、高名な)、
【訳文】
我々は貪欲ということについてある程度、多くとまでは言えないが少しは知っている。貪欲な人とは、心にあいた穴を埋めようとしている人、失われた自尊心を富や地位、他人の尊敬や権力で埋め合わせようとしている人である。貪欲な人とはまた、おそらく復讐心に燃えている人であって、過去に受けた害悪に対し、特定の人または世間全体に復讐しようとしながら、いつもその思いを果たせずにいる人である。アメリカ杉を伐採して山腹を裸にする木材王や、ミシガン湖の湖尻の砂丘を崩して新しい製鋼工場用地を作る鋼鉄王、周囲の大気や水域を毒物で汚染する会社経営者、ビールの空きカンやゴミで一杯の紙袋を車の窓から投げ捨てる旅行者は全て、1つの重要な点、つまり心のどこかで「ざまみろ、馬鹿ども」と言っている点で同じなのである。彼らの人生は一種の戦争であるが、彼らがそれに勝つことも、それを終わらせることもできないのは、自分に欠けているものが何であり、どこでどうやってそれを見つけたらよいかを知らないからである。これで十分ということが彼らにはない。心にあいた穴は決して埋められないのである。教育の課題は、子供を助けて、その成長にあたり、この埋めがたい空白、つまり地球全体を貪り尽くそうとする、飽くことを知らぬ欲求が生ずることがないようにする点にある。欲求の一部は人間の本性に由来するものであるから、問題は欲求をなくすということではなくて、それにある種の、理にかなった限界を設けることにある。ある有名なスポーツ用品店の持ち主は、かつて少し努力すれば事業を3倍にできるのにと言われて、「一体何のためだ。1日に4回食事はできないんだよ」と言ったというが、まさにその通りであって、十分で十分なのである(もうそれぐらいにしよう)。
【例文3】
A number of years ago I spent an afternoon talking with Rachel Carson. Her book Silent Spring had just appeared, criticizing the indifference of America towards its vanishing birdlife and raising, for the first time, the startling concept that man was not likely to inhabit this star very long after its wildlife had disappeared. That the destiny of man and animal was closely interrelated was a new notion, and not a very comforting one, and Miss Carson had found herself attacked by those who saw nothing wrong with killing wild or harmful animals.
At one point during our conversation, she made a shy confession. At her marine laboratory near Boothbay Harbor, Maine, she said, she daily removed small quantities of seawater from the tidal pools and made microscopic examination of the behavior of the tiny creatures she had captured. But then, she added almost apologetically, she would return the sample to the sea. This suggested a respect for life that bordered on fanaticism, and I couldn't help but remark that failing to return a spoonful of water to the sea was not likely to upset the balance of nature.
Miss Carson then looked genuinely embarrassed. “If that surprises you,” she said, “I hesitate to say what I am going to tell you next. If those little creatures are going to survive, I must return them to the sea at the same tide level from which I took them. That means that often I must set my alarm clock, put on my robe and slippers, and carry the sample back to the sea by flashlight. It's not always a pleasant walk, especially on rainy nights.”
【語句】
indifference(無関心)、vanish(消滅する)、birdlife(鳥の生態)、raise(~を提示する、提起する)、startling(驚くべき)、concept(考え、概念)、inhabit(居住する)、wildlife(野生生物)、destiny(運命)、interrelate(~を相互に関連づける)、notion(考え、観念)、harmful(有害な、害を及ぼす)、shy(はにかんだ)、confession(告白)、laboratory(研究所、実験室)、remove(~を持ち去る)、tidal(潮の)、pool(水たまり)、tiny(ごく小さい)、capture(~を捕まえる、獲得する)、add(付け加える)、apologetically(申し訳なさそうに)、sample(標本)、suggest(~を示唆する)、border on(~に近い、~に接する)、fanaticism(狂信)、remark(~と述べる)、upset(~を狂わす)、genuinely(本当に、心から)、embarrassed(当惑した)、hesitate to do(~することをためらう)、put on(~を身につける、着る)、robe(ローブ、部屋着)、flashlight(懐中電灯)。
【訳文】
何年も前のことになるが、私はレイチェル・カーソンと話をしながら、ある日の午後を過ごした。ちょうど出版されたばかりの彼女の書物『沈黙の春』は、アメリカが消滅しつつある鳥類に対して無関心であることを批判し、野生の動物が姿を消せば、その後、人間はあまり長くこの地球上に生きていられそうもないという驚くべき考え方を初めて提示したものであった。人間と動物の運命が密接に関連しているというのは新しい考え方であったが、あまり気持のよいものではなかった。カーソン女史は、野生の動物や有害な動物を殺しても何も悪いことはないと考える人達の攻撃を受けていた。
話がある所まで来た時、女史ははにかみながら告白した。彼女の言葉では、メイン州ブースベイ・ハーバーの近くにある海洋研究所で、彼女は毎日、潮だまりから小量の海水を採取し、彼女が捕えた微生物の生態を顕微鏡で調べているとのことだった。しかし、その後では標本を海に戻すことにしていますと、彼女は言いわけでもするように付け加えた。生命の尊重と言っても、ここまで来るとほとんど狂信にも近いので、私はひとさじの海水を海に戻さなくても自然のバランスは崩れないでしょうと言わざるを得なかった。
カーソン女史はその言葉に心から当惑したように見えた。「そんなことで驚かれるのでしたら」と女史は言った。「これから申し上げようとすることはますます言いにくくなりますわ。その微生物を生き続けさせようとすれば、それを採取したのと同じ潮位の時に海に戻してやらなければならないのです。というのは、たびたび私は目覚し時計をかけ、部屋着にスリッパという姿で、懐中電灯を頼りに標本を海に戻してやらなければならないということなのです。それはいつも楽しい散歩というわけにはゆきません。特に雨の夜にはね。」
【例文4】
Environmental destruction and pollution are happening even though they are not clearly visible. High-tech factories pollute the soil around them and underground water in more extensive areas, while homes produce ever more garbage.
Wide-scale acid rain is damaging forests and lakes, deforestation and land overuse are accelerating desertification, more carbon dioxide is contributing to a warmer climate, and tanker accidents are increasingly polluting the sea.
Above all education is essential to improve the situation. Environmental education has been conducted in many forms, such as community seminars, publications, school instruction and proposals by environmental organizations. But they are far from adequate, especially in schools.
The conduct of each citizen carries such importance now. Accumulated efforts, no matter how small, such as holding the volume of our garbage to a minimum and guarding against wasting resources will lead to improving the local environment, preserving our country and protecting the earth.
But everything must begin by raising our awareness of our surroundings.
【語句】
pollution(汚染、公害)、visible(目に見える)、factory(工場)、pollute(~を汚染する)、underground water(地下水)、extensive(広範囲にわたる)、garbage(ゴミ)、acid rain(酸性雨)、deforestation(森林破壊)、land overuse(土地の酷使)、accelerate(~を加速する)、desertification(砂漠化)、carbon dioxide(二酸化炭素)、contribute to(~に貢献する、~を促進する)、above all(とりわけ)、conduct(行う、実行する)、publication(出版物)、instruction(教育、指導)、proposal(提言)、far from(~から遠く離れている、ほど遠い)、adequate(十分な、適切な)、carry(意味・重みなどを持つ)、accumulate(~を蓄積する)、waste(~を浪費する)、resources(資源)、preserve(~を保全する)、raise(~を上げる)。
【訳文】
環境破壊や公害は、たとえそれらが目にははっきりと見えないものであっても、実際に生じつつある。ハイテク工場は、その周辺の土壌とそれより広範囲にわたる地下水を汚染し、家庭はさらに多くのゴミを出している。
広範囲に及ぶ酸性雨は森林や湖沼を汚し、森林破壊や土地の酷使は砂漠化をより急速なものとし、二酸化炭素の増加は気候の温暖化を促進し、タンカー事故は海洋汚染を進行させている。
こうした状況の改善には、何よりも教育が欠かせない。環境に関わる教育は、環境団体による地域社会のセミナー、出版物、学校での指導、それに提言などの様々な形で行なわれるようになっている。しかし、それらは、特に学校では、十分なものにはほど遠い。
一人一人の市民の行動が今日では実に重要である。ゴミの量を最小限に抑え資源の浪費を防ぐといった、どんなに小さなことでも、努力が積み重ねられれば、地域の環境が向上し、国土が保全され、地球が守られることになるだろう。
しかし、全ては周囲の環境に対する私達の関心を高めることから始めなければならない。
環境問題読本⑫~現代社会・地学・生物・化学の4教科にまたがり、国語・英語でも取り上げられる学際的テーマ、それが「環境問題」です。
【例文5】
Scientists have recently reported that the polar ice is melting, due to a rise in atmospheric temperatures known as the “Greenhouse Effect.” According to Melvin Calvin, who won a Nobel Prize for earlier research, the carbon dioxide given off when coal and oil are burned is accumulating in the atmosphere and causing temperatures to rise. As a result, the ice covering the North and South Poles is melting and may eventually lead to a rise in sea levels which could flood many areas of the world, including New York, London and Tokyo.
The “Greenhouse Effect” is just one of many fundamental changes which are taking place in the environment. Tropical rain forests which took fifty million years to grow are being reduced at the rate of fourteen acres per minute. The world's deserts are growing year by year. Scandinavia's lakes are becoming lifeless due to “acid rain” caused by sulphur dioxide emissions from factories in West Germany and Britain. Many species of animals and plants are threatened with extinction.
In presenting the results of “Global 2000”, the U.S. Government's most comprehensive study of the future, Edmund Muskie said, “World population growth, the degradation of the Earth's natural resource base and the spread of environmental pollution collectively threaten the welfare of mankind.” Words alone, however, will not solve the problem. If governments do not act quickly and decisively to protect the environment, this planet will soon become uninhabitable.
【語句】
polar(極地の)、melt(溶ける)、due to(~の原因で、~のためで)、atmospheric(大気の)、temperature(温度)、Greenhouse Effect(温室効果)、Melvin Calvin(メルヴィン・カルヴィン、1911~1997年。アメリカ合衆国の化学者。、光合成反応における炭酸固定反応であるカルビン・ベンソン回路をアンドリュー・ベンソンとジェームズ・バッシャムと共に発見し、それによって1961年にノーベル化学賞を受賞しました)、carbon dioxide(二酸化炭素)、give off(煙・臭い・光・熱・雰囲気などを発する)、accumulate(蓄積する)、as a result(結果として)、eventually(結局は、やがて)、lead to(~に至る)、a rise in sea levels(海面上昇)、flood(~を水浸しにする)、fundamental(重大な、根本的な)、take place(起こる、生じる)、tropical rain forests(熱帯雨林)、reduce(~を減少させる)、acre(エーカー、面積の単位で約4047㎡)、desert(砂漠)、Scandinavia(スカンディナヴィア。スカンディナヴィア半島、もしくはデンマーク・ノルウェー・スウェーデンの総称、時にフィンランド・アイスランドも含みます)、lifeless(生物が住まない、生命のない)、acid rain(酸性雨、空気中の二酸化炭素が雨滴に溶け込むことで生じるpH5.6よりも酸性度が強い雨のこと)、sulphur dioxide(二酸化硫黄)、emission(排出)、species(生物分類上の種)、threaten with(~の危険が迫っている、安全を脅かす)、extinction(絶滅)、present(~を述べる、発表する)、Global 2000(『西暦2000年の地球に関する大統領への報告書』、1972年のローマ・クラブによる人類の危機レポート「成長の限界」に相当するアメリカ合衆国政府特別調査報告で、1980年に公表されました)、comprehensive(包括的な)、study(研究)、Edmund Muskie(エドマンド・マスキー、1914~1996年。メイン州選出アメリカ合衆国上院議員で、上院における最初の環境保護論者として有名です。メイン州知事を経て、カーター政権で国務長官を務めました) 、degradation(悪化、低下)、natural resource(天然資源)、collectively(集合的に)、threaten(~を脅かす)、welfare(幸福)、decisively(断固として)、uninhabitable(居住不能な)。
【訳文】
科学者達は最近、「温室効果」として知られている大気温度の上昇により、極地の氷が溶けていると報告してきている。以前の研究でノーベル賞を受賞したメルビン・カルビン氏によると、石油や石炭を燃焼させる時に発生する二酸化炭素が大気中に蓄積されて、気温を上昇させている。その結果、北極と南極を覆っていた氷が溶けており、やがてはニューヨーク、ロンドン、東京を含む地球の多くの地域を水浸しにするほどの海面上昇をもたらすかもしれない。
「温室効果」は環境の中で生じている多くの重大な変化の1つでしかない。成育するのに5千万年かかった熱帯雨林は、1分間に14エーカーの割合で減少している。世界の砂漠は年々拡大している。スカンジナヴィアの湖は、西ドイツやイギリスの工場から排出される二酸化硫黄による「酸性雨」により、生物が滅びかけている。多くの種類の動植物が絶滅に瀕している。
アメリカの未来に関する最も包括的な研究である『グローバル2000』の結論を述べる際、エドマンド・マスキー氏は、「世界人口の増加、地球の天然資源基盤の悪化、環境汚染の拡散が一体となって、人類の幸福を脅かしている」と述べている。しかし、言葉だけでは問題は解決されない。もし政府が環境を守るために迅速に断固として行動しなければ、地球はやがて居住不能となってしまうだろう。
【例文6】
The forests being destroyed for fuel and land are located mostly in the tropical countries, where they are disappearing with frightening quickness. The estimate is that the tropical forests are being cultivated at the rate of sixty-four acres per minute. What is taking place is an appalling catastrophe. Fuel is running short as a result. Already in 1981, it was estimated that as many as 96 million people could not get enough fuel wood to meet their minimum needs for cooking and heating. Nor can we imagine that wood can be replaced by other energy sources. Developing such sources would take time and capital investment, which the poor nations don't have, and charitable gifts of coal and oil from an industrial world (that feels itself to be increasingly in danger of shortages, too) are not in the cards. For that matter, the industrial nations are killing their own forests with the acid rain that results from the burning of too-impure coal and oil.
As it happens, trees perform many functions other than the simple manufacture of wood. Their roots hold soil in place more efficiently than the roots of other plants do, and they absorb water, preventing a too-rapid run-off. What is more, the overflowing rains (which give the rain forests of tropics their name) wash the soil and leave it poor in minerals. The tropical forests are adapted to this situation and grow well under these condition. Other plants would not. What's more, forests discharge water into the atmosphere through their leaves in great quantity. This water is vaporized, and the process absorbs much heat that would otherwise serve to warm the ground.
【語句】
forests(森林)、fuel(燃料)、be located in(~に位置する)、tropical(熱帯の)、disappear(消滅する)、frightening(驚くべき)、estimate(見積もり、推計、~と見積もる)、cultivate(開墾する)、acre(エーカー、面積の単位で約4047㎡)、take place(起こる、生じる)、appalling(ぞっとさせる、恐ろしい)、catastrophe(大異変、大災害、大惨事)、run short(不足する)、as a result(結果として)、as many as(~もの)、fuel wood(薪)、replace(~を置き換える)、source(源)、develop(~を開発する)、capital investment(資本投資)、charitable(慈善の)、feel itself to be(~が…であると感じる)、increasingly(ますます)、shortage(不足)、be in the cards(物事がありそうである)、impure(不純な)、result from(~から結果として生じる)、as it happens(あいにく)、perform(~を果たす)、function(機能)、manufacture(製造)、wood(木材)、hold(~を保持する)、soil(土壌)、absorb(~を吸収する)、prevent(~を妨げる、防ぐ)、run-off(流出)、what is more(その上)、overflowing(あふれ出る)、rain forests of tropics (熱帯雨林)、mineral(無機物)、adapt A to B(AをB~に適応させる)、discharge(~を放出する、排出する)、leaves(葉leafの複数形)、quantity(量)、vaporize(~を蒸発させる)、otherwise(さもなければ、そうでなければ)、serve to do(~する役目をする)、warm(~を暖める)。
【訳文】
燃料や土地利用のために破壊されている森林の大部分は熱帯地方にあり、そこでは森林が驚くべき速さで消滅している。推計では1分問に64エーカーの割合で森林が開墾されている。生じつつあるのは、ぞっとするような大惨事なのだ。結果として、燃料が不足しつつある。すでに1981年には、9600万人もの人々が調理や暖房に最低限必要な薪を得られないと推定されている。そして、薪が他のエネルギー源に置き換えられるとは考えられない。そうしたエネルギー源を開発するには時間と資本投資が必要で、貧しい諸国にはそうしたものはない。石炭や石油を、工業国が(それ自体もまた、ますます不足の危機にさらされていると感じているのだが)慈善の贈物として贈ることもありそうもない。その点では工業国も、あまりに不純な石炭や石油を燃やす結果生ずる酸性雨により、自分達の森林を破壊しているのだ。
あいにく、樹木は単に木材を生み出すこと以外にも多くの機能を果している。その根は土壌を他の植物よりも効率的に保持する。そして樹木は水を吸収し、急激な流出を防止する。その上、あふれ出る雨水(熱帯雨林の名前はそこから来ている)は土壌を洗い流し、無機物の乏しいものとしてしまう。熱帯林はこの状況に適応し、こうした条件の下でもよく成長する。他の植物ではそうはいかない。さらに、熱帯林は葉を通して大量の水を大気中に放出する。この水は蒸発し、その過程で蒸発が無ければ地面を暖めてしまう熱の多くが吸収されるのである。
【例文7】
Many of the most compelling international issues of today are environmental. The warming of the earth caused by the production of carbon dioxide, the destruction of forests by acid rain, pollution of rivers and oceans, uncontrolled desertification, the destruction of the protective ozone layer by the chemicals in sprays――these are just some of the problems under discussion among scientists, government officials and environmentalists, and in the media. The collective awareness is rapidly growing that the global environment can only be protected for the coming century through genuine international cooperation. But this will require some radical rethinking on a fundamental level.
Since the outbreak of Minamata disease (mercury poisoning) in the late fifties, environmental problems have been a major social issue in Japan, and various measures have been devised to eliminate pollution and other dangers to public health. As a result, considerable improvements have been made, at least in dealing with problems that are conspicuous in our daily lives. The number of days one can see Mount Fuji from downtown Tokyo has greatly increased, and the smell of the Sumida River that runs through the oldest part of the city has faded; fish have returned to its waters.
The issues now attracting international attention tell us clearly, however, that environmental problems have by no means been solved. The pollution we recognize and experience directly may have lessened, but the sphere of human activity in general has greatly expanded, and experts are pointing to signs of immense changes in the ecosystem. If nothing is done, it is feared that continued reduction of the ozone layer, warming of the earth, desertification, acid rain, and so forth could, in the long term, threaten the survival of the human race and all other forms of life on the planet. These issues may not pose an immediate threat to our daily lives, but their damage could be permanent if proper steps are not taken now. It is Japan's responsibility as an industrialized nation to take the initiative in tackling the issues, introducing measures that take a much longer perspective than ever before contemplated.
【語句】
compelling(人を引きつける)、issue(緊急の問題点、論争点)、environmental(環境上の)、carbon dioxide(二酸化炭素)、acid rain(酸性雨、空気中の二酸化炭素が雨滴に溶け込むことで生じるpH5.6よりも酸性度が強い雨のことです)、protective(保護する)、ozone layer(オゾン層。オゾンとは酸素原子Oが3つ結びついたO3という分子で、オゾン層とは地上から約10~50キロメートル上空の成層圏にある、オゾンが多く存在する層であり、太陽光に含まれている有害な紫外線の大部分を吸収することで、地球上の生物を守っています)、chemical(化学薬品)、government official(政府の役人)、environmentalist(環境保護論者)、collective awareness(共通認識)、the coming century(来たるべき世紀、次の世紀。この文章が書かれた時点では21世紀のこと)、genuine(真の、見せかけでない)、international cooperation(国際協力)、radical(抜本的な)、rethinking(再考)、fundamental(基本的な)、outbreak(発生、突発)、Minamata disease(水俣病。熊本県水俣湾周辺の化学工場などから海や河川に排出されたメチル水銀化合物により汚染された海産物を、住民が長期にわたり日常的に食べたことで水銀中毒が集団発生した公害病で、四大公害病の1つです)、mercury poisoning(水銀中毒)、in the late fifties(1950年代後半に)、measures(対策、処置)、devise(~を工夫する、考案する)、eliminate(~を除く、除去する)、pollution(公害、汚染)、public health(公衆衛生)、as a result(結果として)、considerable(かなりの、相当な)、improvement(改善、改良)、deal with(~を処理する、対処する)、conspicuous(人目を引く、顕著な、明白な)、downtown(都心部)、smell(臭い、悪臭)、run through(~を走る、流れる)、fade(薄れる、いつの間にか姿を消す)、attract(~を引きつける、注目を集める)、by no means(決して~でない、全く~でない)、lessen(~を減らす、減少させる)、sphere(範囲、領域)、expand(~を拡大する)、expert(専門家)、point to(~を指摘する)、immense(計り知れないほど巨大な、多大な)、ecosystem(生態系)、fear(~を危ぶむ、恐れる)、continued reduction(継続的減少)、desertification(砂漠化)、and so forth(~など、=and so on)、in the long term(長期的に)、threaten(~を脅かす)、race(種族、類)、pose(問題を提出する、危険などを~に引き起こす)、immediate(直接の)、damage(被害)、permanent(永続的な)、proper(適切な)、step(処置、手段)、responsibility(責任、責務)、industrialized nation(工業国家)、initiative(イニシアチブ、主導権)、tackle(~に取り組む)、introduce(~を導入する)、perspective(視野、見通し)、contemplate(~をじっくり考える、熟慮する)。
【訳文】
今日の最も注目せざるを得ない国際問題には、環境に関するものが多い。二酸化炭素の発生による地球の温暖化、酸性雨による森林の破壊、川や海の汚染、抑制のきかない砂漠化、人問を守ってくれるオゾン層のスプレー中の化学薬品による破壊--これらは単に科学者、政府の役人、環境保護論者達の間、そしてマスコミで論議されている諸問題のうちのいくつかにすぎない。21世紀の全地球規模の環境は、真の国際協力によってしか守ることは出来ない、という共通認識が急速に生まれつつある。しかし、このことは基本的なレベルで何らかの抜本的な再考を必要とするだろう。
1950年代後半に水俣病(水銀中毒)が登場して以来、環境問題は日本において主要な社会問題であったし、公害や他の公衆衛生に対する危険を除くために様々の対策が練られてきた。その結果、少なくとも私達の日常生活において目立つ問題の処理に関しては、かなりの改善がなされてきた。東京の都心部から富士山を見ることのできる日数がずっと増え、東京の最も古い地区を流れる隅田川の悪臭が薄れ,その水域に魚が戻ってきた。
しかしながら、現在国際的な注目を集めている問題点を考えると、環境問題は決して解決されてはいないということが明らかに分かる。私達が直接認知し、経験する公害は減少したかも知れないが、人問の一般的活動の範囲は非常に拡大しており、専門家は生態系において、とてつもない変化の生じる兆候があることを指摘している。もし何らかの手が打たれなければ、オゾン層の継続的減少、地球の温暖化、砂漠化、酸性雨などが長期的には地球上の人類や他の形態の生命の存続を脅かすことが危ぶまれている。これらの問題は私達の日常生活に直接の脅威はもたらさないかもしれないが、もし適切な手段が今講じられなければ、これらの与える被害は永続的なものとなろう。かつて考えられていたよりもずっと長期的な見通しを持った手段を講じることによって、こういった問題に率先して取り組むことは、工業国家としての日本の責務である。
【例文8】
So the greenhouse effect is upon us? We would almost like to think it was so. At least we could blame something for the strange things that are happening to the great British talking-point, the weather.
The last year has been a climatic astonishment in Britain. It started with the mildest winter since records began in 1659. It continued with the warmest summer, and one of the driest. To end it, we have had another very mild winter, our third in a row, and now to cap it all, storms we have not known since the last century. Something is surely up.
In the middle of last summer, the climatologists were still publicly expressing caution as to their conclusions. We cannot prove it yet. Two warm winters don't make a greenhouse. Then came the autumn, then the winter, and now they are beginning to tell us that what has seemed like a layman's coincidence is proving to be statistically significant. Six of the ten warmest years have occurred in the Eighties.
If it is the greenhouse effect, the cause is simple. Since the start of the industrial revolution, we have been burning the carbon resources of the earth, and breaking them down far faster than nature herself. The consumption of timber, coal, gas, and oil leaves carbon dioxide in the atmosphere, instead of leaving it locked up in the trees, soils and rock sediments where nature would like it to remain. As our society and technology has become more sophisticated, we have added many other pollutants, like chlorofluorocarbons (CFCs), nitrogenous oxide and methane. These gases do one simple thing that we wish they didn't. They obstruct infra-red radiation. Some of the energy from the sun's rays is normally reflected back into space by the earth's surface as infra-red. These gases trap it just like a greenhouse does. The earth's atmosphere is warming as a result.
【語句】
greenhouse effect(温室効果)、blame A for B(AをBの理由で非難する)、talking-point(話題)、climatic(気候上の)、astonishment(驚くべきこと)、mild(温暖な)、in a row(連続して)、to cap it all(あげくの果てに)、up(出現して、起こって)、climatologist(気象学者)、caution(用心、警戒)、as to(~に関して)、conclusion(結論)、prove(~を証明する)、layman(素人)、coincidence(偶然の一致)、statistically(統計的に)、significant(重大な、意味がある)、occur(起こる、生じる)、in the Eighties(1980年代に)、the industrial revolution(産業革命)、burn(~を燃やす)、carbon resources(炭素資源)、break down(~を分解する)、consumption(消費)、timber(材木)、carbon dioxide(二酸化炭素)、atmosphere(大気)、lock up(~を閉じ込める、固定させる)、sediment(堆積物)、remain(~のままである、~にとどまる)、sophisticated(非常に複雑な、高度な)、add(~を増し加える)、pollutant(汚染物質)、chlorofluorocarbon(クロロフルオロカーボン、フロンガス)、nitrogenous oxide(窒素酸化物)、methane(メタンガス)、obstruct(~をふさぐ、通れなくする)、infra-red radiation(赤外線)、the sun's rays(太陽光線)、normally(通常は)、reflect back(~を反射する)、trap(~を閉じ込める)。
【訳文】
それで、温室効果は実際生じつつあるのだろうか。生じつつあるのだと考えたくもなる。少なくとも、我々イギリス人のかのお決りの話題である天候に生じつつある様々の異変ぶりには、何か原因があると言ってもよかろう。
昨年はイギリスでは異常気象続きであった。1659年以来の記録破りの暖かい冬で始まり、そのまま最も暑い夏を迎え、しかも大変なカラカラ照り。それが終わると、また今年も温暖な冬で、3年連続の暖冬が来て、おまけに19世紀以来の嵐となった。何かが確実に生じつつあるのだ。
昨年の夏の半ばの段階では、気象学者達は公式にはまだ結論を出すには早過ぎるとしていた。まだ事の真相はつかめていないのだ。2年連続の暖冬だからといって、これを即、温室効果だと決めつけるのは早すぎると言うのだ。そうこうしているうちに秋が来て、冬を迎えた今になって、彼らは素人の意見が偶然一致したものだと思ってきたものが、統計的にもはっきりと裏付けられていると言い始めている。史上10回の最も暑い年のうちの実に6回までが1980年代に起こったのだ。
この異変が温室効果であるとするなら、その原因は単純だ。産業革命が始まって以来、人類は地球の炭素資源を燃やし続け、自然分解よりもはるかに早いスピードで化学分解させることになったのである。材木、石炭、天然ガス、石油を消費すれば(燃やせば)、二酸化炭素を自然がそれを残しておきたいであろう所に、つまり樹木、土壌、岩石堆積物の中にしまい込んだままにしておかないで、大気中に放出する結果となる。私達の社会と科学技術が高度になるにつれて、我々はフロンガスや窒素酸化物、メタンガスといったような他のさらに多くの汚染物質を増やし続けている。これらの気体は、好ましからざる1つの単純な現象を生じさせている。つまり、赤外線の放射を閉じ込めてしまうのである。太陽光線の持つエネルギーの一部分は、通常は赤外線となって地球面で反射して宇宙空間に至るのだ。ところが、これらの気体は赤外線を、あたかも温室のように閉じ込めてしまうのである。その結果、地球の温暖化が生ずるのである。
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