科目別本格的勉強法

科目別本格的勉強法:英語編

【英単語】
 英単語は「スペル」「発音」「意味」の三位一体で覚えます。特に「英語ができない人」「英語が弱い人」に共通する要素として、「発音の軽視」は見逃せません。単語は目でスペルを見て意味を思い出すだけでなく、耳で音を聞いて意味を思い出せないといけませんから、基本的には「読めない単語を覚えることはできない」と考えましょう。

(1)中学校レベル単語
 中学校の基本単語(大体1,000語レベル)は丸暗記が手っ取り早いと言えます。ただし、半分以上は日本語化しているといってもいい単語群なので、「発音矯正」をする必要があります。したがって、「発音記号」の理解を一番最初にやっておくことが肝心なのですが、現在の中学校英語ではこれを本格的にやることもなく学習をスタートさせており、「外国語学習」としては難があります。

(2)高校レベル単語
 次に高校基本単語約3,000語が待っていますが、英語の得手不得手が分かれるのがこの領域です。学校指定の英単語集がある場合はそれを使い、なければ自分に合った英単語集を選んで、1日30~50語ずつ地道に覚えていきましょう。覚える端から忘れていくのは仕方がないことなので、「前の日の30~50語だけ復習して確認し、当日分の30~50語を覚えていく」ことです。これは机にかじりついて覚えるというようりも、「目で見て、何度も口で発音して、耳でも覚える」ことに徹して、移動中のバスや電車、トイレの中など、「こま切れ時間の活用」の中で作業したいところです。こういった「機械的暗記」「ノルマ的暗記」がどうしても難しい人は、「出会い頭に片っ端から覚える」方式に切り替えて、文法問題や読解、作文などをやる中で分からない単語が出るたびに辞書を引き、その単語の所にチェックを入れて、「辞書の単語帳化」を進めるのがいいでしょう。そうすると、何度も何度も同じ単語を引いているうちに、自分で「重要度・頻度」が自覚でき、重要頻出単語から優先的に覚えることができるからです。ただ、試験・受験まで時間が限られている人はセニハラ状態なので、「機械的暗記」「ノルマ暗記」方式にせざるを得ず、余裕がある人は「出会い頭に片っぱしから覚える」方式でも可能と言えます。

(3)大学・社会人レベル単語
 ちなみに新しく外国語を学ぶ上で知っておくべきこととして、日常的に使用される単語数は大体3,000~4,000語だそうです。これに対して、例えばニューヨーク・タイムズなどで使用されている単語数は大体20,000~25,000語と言われていますので、知的レベルの高い情報ツールを使いこなそうと思えば、次は地道にこのレベルまで単語数を増やしていくことになるでしょう。実際、大学卒業後に留学して語学学校に通わず、いきなり大学院の授業に入る人は大体このレベルに達しています。日本人で相当な読書量をこなす人なら、日本語でもこれぐらいの単語数は持っているはずです。
 そこで、文化人類学者やフィールドワーカー達は、まず新たな調査に取り掛かる前に集中的に日常的基本単語を修得します。膨大なトーラーを覚えさせるユダヤ人の教育方法でも、こうした「丸暗記」の効用は広く認められています。したがって、「暗記力」に自信がある人なら、とりあえず3,000~4,000語の基本単語を集中的に覚えてしまうのが手っ取り早いということになります。例えば、英単語25万語を覚えたと言われる長崎玄弥氏は「連想法」(グループ暗記)と「スピード」を重視した「連鎖記憶法」という手法を勧めています。あるいは、「身体化」という手法で、単語を「見る」だけではなく、「発音する(耳でも聞く)」「書く」という作業を重ね、「記憶のとっかかり」を増やすということもよく強調されます。さらに「反復」(これが記憶定着のカギです)を増やすためには、実際、「スピード」を上げるしかありませんが、やろうと思えば1日50~100語ずつ覚えて、3000語を1~2ヶ月で一巡させることすらできないわけではありません。むしろ、「1日10語、20語覚えるのも大変なのに、50語や100語なんてできるわけない!」と最初から決めてかかっている、その「心のバリア」自体が「不可能」を作り出しているのです。「やればできる」と思ってかかれば、不思議なことに「可能」が生み出されます。
 これに対して、「無味乾燥な丸暗記には耐えられない」というタイプには、「思考」を重ねながら、「意味付け」をしつつ、単語を増やしていく方法が考えられます。この際、役に立つのが「構成論的アプローチ」と「語源学的アプローチ」です。「構成論的アプローチ」とは、単語を接頭辞+語根+接尾辞に分け、「re-」が付く単語は「再び、さらに」といった意味が共通する(religion, recover, remakeなど)とか、「-tion」が付けば「状態・動作・結果を表わす名詞」を造る(condition, temptation, suggestionなど)といったように語の構成を分析し、未知の単語の理解にも応用が利くようにする方法です。「語源学的アプローチ」は単語や意味の由来を尋ねるもので、ラテン語やギリシア語、フランス語から歴史的理解にまで及び、手間がかかるようですが、最も奥行きを広げてくれます。森鴎外のような語学の達人も、単語を覚える際に必ず語源となったギリシア語やラテン語を書き留めており、こうした例は多く見られます。実は日本人でも中学校から古文・漢文を学びますが、これらは現実的実用性が一切無いにもかかわらず、その知識と理解が深まるほど、日本語運用能力が飛躍的に高まることが知られており、これも一脈通じる現象であると言えるでしょう。手間ひまかけて、覚えたものほど記憶は鮮明になり、かつ後々まで消えないものとして残るのです。そうしてある程度、単語のストックが増えてきたら、知識の有無をチェックするために単語集を利用するとよいでしょう。そこで知らない単語だけチェックして、それらを集中的に覚えればいいわけです。

【英文法】
 単語のルールに「語法」(ニュアンスの差や場合ごとに使っていい語と悪い語とがあったりする)があり、文章のルールに「文法」(文章として正しいか間違いか)があり、発話のルールに「話法」(発話の表現としてあり得るかどうか)があります。特に「文法」の正しい理解は、文章を読んで理解する上で絶対不可欠のものであり、「単語力」と共に「文法力」は「語学力」を支える「車の両輪」と言ってもいいでしょう。

(1)文法の基本的理解
 そこでまず「文法の理解」からということになるのですが、最初の文法書はとにかく薄いものがいいとされます。どんな外国語の学習でもそうですが、なるべく早く全体像が見えた方がやりやすくなるので、最小限の文法事項を押さえたものがあればいいわけです。2度目以降、あるいは疑問を感じてより詳しく調べようとする際に、説明の詳細な文法書を利用すればいいでしょう(これは辞書的に使用するわけです)。1度で全て理解してしまおうと思わず(そんなことは不可能です)、「読書百遍意自ずから通ず」(何でも百回読めば、その意味する所は自然に理解されるものだ)、「葦編三絶」(綴じ紐が3回切れるくらい、同じ書物を何度も読むことが大切だ)と言われる如く(これは本当によく言ったものですよ!)、「反復を重ねて知識を定着させる」ことを考えるべきです。

(2)文法問題演習
 その次に「文法問題演習」による肉付け、知識の整理の段階となるのですが、文法問題は数をこなして、知識を増やすのが一番現実的です。自分のレベルと目標に合った問題集を選んで、1日1章ずつ文法問題をこなしていくことをノルマとし、3巡目、4巡目で仕上げていくつもりでとりかかりましょう。できなかった問題にチェックを入れて、3巡目はチェック問題のみ、4巡目はダブルチェック問題のみとしていけば、加速度的にスピードが上がります。基本的に英語力を伸ばすには最低半年、どんなに急いでも3~4ヶ月はかかるのが普通ですが、単語力と文法力だけは即効性があります。
 これらの分野に関しては試験直前1~2週間でも得点力を上げることはいくらでも可能なので、その場合は目標とする試験の過去問を使って、ラッシュで取り組むべきです。実際、東大から公認会計士・通訳・弁護士の「資格三冠王」を達成した黒川康正氏は、東大受験の時も過去10年分の問題に全て取り組み、司法試験の時に至っては戦後の司法試験制度になってからの全ての問題を解いたといいます。そうすると、傾向、レベルの理解はおろか、ほとんど似た問題が出題されることも多くなり、最善の結果に結びついたというわけです。まさに「過去問演習は速学に不可欠」ということです。

(3)文法理解の深化・強化
 ところで、「意味・意義を求める人」「疑問を感じやすいタイプ」の場合、「共時的アプローチ(比較言語学)」「通時的アプローチ(歴史言語学)」の2つが有効です。「共時的アプローチ」とは、「外国語が良く分かるのは3つ目から」と言われるごとく、ただ1つの外国語(日本の場合、基本的に英語となります)のみしか知らないと、そこで挫折すれば「外国語コンプレックス」が沈殿し、深刻化しかねませんが、視点を変えて、いくつかの言語に触れてみると、目標言語を「相対化」させることができるという原理に基づいています。例えば、英語をふまえてドイツ語・フランス語に取り組むと、最初からドイツ語・フランス語に取り組むより理解が早く、深くなりますし、英語の文法知識が実に役に立つことが実感されます。逆に英語の簡単さも良く分かってきます。今まで「見上げていた」ものが、今度は「見下ろす」立場に立ってくるわけです。さらに日本語と文法構造がほとんど一緒の韓国語に触れてくると、インド・ヨーロッパ語族とウラル・アルタイ語、屈折語と膠着語といった「言語の違い」、ひいては「文化の違い」にも自然と目が向かうようになり、「教養」がぐっと深まって、単なるつまらない「勉強」の次元を大きく超えてくることとなるでしょう。また、「通時的アプローチ」を使って英語史・英語学史の知識を持てば、英語における「発音とスペルのズレ」(英語学習者を悩ませるものの1つです)なども全く無法則なのではなく、歴史的経緯があったことがよく分かります。実際、国語で中学校から学び始める「漢文」も、実は「漢語」と「大和言葉」という視点を持てば、「共時的アプローチ」ともなり、「日本語の形成」という観点から見れば、「古文」と共に「通時的アプローチ」となるのです。

【英文読解】
 英語学習の主戦場は英文読解にありますが、この中で単語・熟語の知識、文法・構文の知識、論理的思考と内容的知識・理解、精読と速読といった全ての要素が問われることとなります。ここで必要なのは「構造理解」「文脈判断」「表現整備」の三位一体です。そして「徹底精読」→「長文対応力・設問対応力」→「時間内得点力」の三段階で訓練を重ねていくことになります。そうして、「精読」→「多読」→「速読」の三段階で読解力を確立させていくわけですが、そのために要する文章は150題以上とされます。

(1)徹底精読訓練
 テーマは「分かったような気になることを防ぐ」「あいまいさの排除」です。中学校英語のレベルならここがいい加減でも「単語の拾い読み」と「カン」でけっこううまくいったりするので、いくら口を酸っぱくして言っても事の重大さがなかなか分からないものですが、高校英語になるとこれではだんだん通じなくなっていきます。受験英語にはまず歯が立たないと言っていいでしょう。高校に入ったらすぐに、できれば中学校のうちから「徹底精読」の訓練を受けておくことが重要です。これは「自力訳」→「調べて修正」→「解答・解説の熟読」という三段階を経ますので、1日1題で十分です。
①音読10回
 「単語の発音・アクセント」のみならず、「文章としてのアクセント(ストレス)、イントネーション(抑揚)」に気をつけて、「大きな声で10回は繰り返し音読」する。
②自力訳
 次にノートの見開きを使い、左側のページに英文をコピーして貼るか、2行ずつ空けて書き写す。そして、最初は何も見ないで「自力訳」を試み、右側ページに「日本語訳」を筋が通るように書く。大量の文章を読み込み、地道に訳出していく中で、生きた知識を吸収していく方法は典型的な「灘方式」です。
③構造分析
 複雑な文章に関しては、S(主語)、V(述語)、O(目的語)、C(補語)、M(修飾語)を書き込み、文の構造を明確化していきます。これは劣等生だったチャーチルが受けた指導法であり、この方法で一転して文章力がアップした彼は、後にノーベル文学賞を受賞するほどの「文章の達人」となりました。基本的に英語の文章は「5つの文型」に分類することができますので、「論理的にツメる」上でもこの作業は必要です。さらに主語と述語の間にスラッシュを入れて、「S-V」(これが文の骨格です)を明確にしたり、主語が分かりにくい場合は「三単元のs」や過去形などに注目したり、主語と時制、あるいは目的語を取るか取らないかなどで確定させます。さらに修飾語と被修飾語を矢印でつないで、「修飾関係」を明らかにしたり、「A and B」「A, B and C」といった「並列関係」をはっきりさせたりして(これは意味が分からない単語を推測したりする上でよく使います)、文の構造を分析するわけです。後から見直す時にこうした「読解作業の跡」が残っていると、一読目よりもはるかに速いスピードで再読、再々読することができます。逆に何の作業の跡もないと、一読目と同じくらい時間がかかったりします。
④文脈判断
 これは分からない単語・熟語は前後の文脈から意味を類推するということです。難しい英文読解であれば、1行につき分からない単語が1~2個あってもおかしくありません。これに対して、単語力・熟語力だけで対処しようとすると限界がありますので、分からない所があっても、前後関係や文脈の流れから「大体こういう意味であるはずだ」と類推する力が必要となってきます。これには時間を取られますが、こうしたロジカル・リーディングができてこそ、スピード・リーディングが可能になるのです。この2つの違いはギアチェンジができるかどうかにかかっています。 ⑤表現整備  基本的には「直読・直解・直訳」を旨とします。なぜかというと、翻訳とは違って採点対象となる以上、「構文や構造をちゃんと分かっていますよ」ということを採点者にはっきり示す必要があるからです。直訳した場合、「日本語表現としての許容範囲を超える」と思われる場合のみ、「意訳」「表現整備」を行います。この段階のみ、「日本語との戦い」になるわけです。また、読み手は目にする順、聞き手は耳にする順に情報を把握・理解していくわけですから、「私は次のように考えた、すなわち・・・」といったように「訳し下し」をした方がより自然な理解に近くなっていきます。
⑥調べ作業
 今度は辞書や文法書を調べて、単語の意味・発音記号などを書き込み、理解や訳を修正します。本当はここでパーフェクト解答が出来ていいはずですが、実際にはなかなかそうはいきません。この差が「知識の差」を超えた「思考力の差」を示しています。
⑦解答・解説の熟読
 単語や文法、構文、内容などの総点検をし、扱われているテーマに関する知識と見解も吸収していきます。受験で使われる英語は大体、①ニュース英語とは違って偏りがあり、②アメリカの大学生が教養課程で学ぶような英語であって、③人文科学、社会科学、自然科学といった知的なアカデミックな内容が多い、といった特徴を持っています。しかも、「異文化理解」「比較文化」「比較言語」「読書論」「教育論」「人口問題」「科学論」「環境問題」「共生論」など、入試で取り上げられやすいテーマも30~40ぐらいですから、最初から基本的知識と基本的見解をインプットしておいた方が手っ取り早く、そうすれば「先読み」も可能になってきます。したがって、短くてもそれなりに中身が濃い問題文は単なる読解訓練としてのみならず、貴重な知識吸収源、情報源として活用し、この問題文から得られるものはもう無いという所まで吸収し尽くすことが、膨大な読書をするよりもはるかに効率的に読解力アップにつながると言えるのです。

(2)長文対応力・設問対応力訓練
 「徹底精読」の段階では「良質の短文中心」となってきますが、次の段階では打って変わって質・量共に3倍アップした文章が必要になってきます。要するに「知らない単語だらけ」「構造や文脈が分からない所だらけ」といった文章で、早い話が「心が折れそうになる文章」が欠かせないということです。実際の入試などではこういった文章に遭遇することが避けられず、「自分は単語を全然知らないから解けないんだ」「自分は文法をよく分かっていないから、文法の基礎からやり直さなければいけないんだ」と後退するのではなく、「知らない単語だらけ、分からない所だらけ、でも点はもぎ取る」といった訓練が必要だということです。
①パラグラフをくくる
 あまり細かくパラグラフが分かれている場合には、複数をまとめる必要がありますが、基本的にはパラグラフごとにまとまりがあり、文章全体の「論理構造」がありますので、先にパラグラフをくくってしまいます。これは全体像をより見やすくするためで、現代文の読解でも使う方法です。一般的なリーディングなら、第一パラグラフに全体のイントロダクションが来ますので、この理解に集中します。
②「序論」→「本論」→「結論」という三段構造に注目する
 英語やドイツ語のような論理的な文章の場合、「序論」→「本論」→「結論」という三段構造を取るのが基本で、「序論」ではテーマの導入、一般論の提示、筆者の論点提示(「結論の先行提示」)などが述べられ、「本論」では論拠、具体例が複数挙げられます。最後に「結論」ではそれまでの論点の総まとめ、筆者の論点の再提示、今後への展望、提言などが述べられるのが普通です。こうした文章全体の「論理構造」が分かっていると、細部が分からなくても、どういう話の展開になっているか、推測がつくことがしばしばです。
③「テーマ」「意見」「論拠」「結論」をワクで囲む
 これは現代文でも使う手法ですが、筆者は「言いたいこと」「伝えたい考え」があるからその文章を書いているわけで、その核心的内容は「強調」という手法を使って読者に伝えられます。具体的には「対比(比較)」と「反復(言い換え)」の2つであり、「対比されているキーワード」や「いろいろな言葉で言い換えられて繰り返されているフレーズ」(英語は同じ表現の反復を嫌います)などを囲んだり、矢印で関係を示したりしておくのです。特に「対比構造」は論理的言語が議論を深めるために用いる基本技法なので、瞬時に見抜けるようにしたいものです。 ④「抽象-具体-抽象」の三段構造に注目する
 パラグラフの中でも、「抽象-具体-抽象」といった三段構造がよく見受けられます。抽象的な内容を述べると必ず、読み手、聞き手に「それはどういうことかというと、つまり・・・」といった具体的説明をせざるを得ません。抽象的内容が分からなくても、それに続く具体的説明で理解が可能になりますし、抽象的内容が理解できているなら、具体的説明を読み飛ばすことも可能になります。そして、最後に再び抽象的にまとめることがよくあるわけですが、この抽象部分をつなげていくと、「文章の骨格」が出来上がります。それ以外の具体的部分はその肉付けに相当します。したがって、スピード・リーディングの手法では、全体では第一パラグラフと最終パラグラフに注目し、各パラグラフ内では最初の文と最後の文に特に注目するということになります。
⑤パラグラフをざっと読むたびごとに設問に取りかかる
「1パラグラフ・1問題」が典型であるとされるように、基本的にはパラグラフごとに設問が設定されているので、パラグラフを読み終わる度に設問に向うべきです。「該当段落に解答の80%がある」というのは現代文の鉄則でもありますが、本文を読んで理解できなかったものが、設問の選択肢を通して「何だ、こういう内容を言っていたのか」と分かることがしばしば起きるものです。
⑥図表・グラフなどが出ている場合、まずその特徴を押さえる
これは「内容の先行理解」と呼ばれるもので、スピードを上げるためのコツはこの「先読み」にあると言えるでしょう。 ⑦問題に出て来た単語、熟語、文法事項、内容は丸暗記するつもりで覚え込む。
これは新しい情報をどんどん入れるよりも、すでに知っている知識を確実なものにする方がはるかにロスが少ないからで(ローコスト・ミドルリターン)、「未知情報よりも既知情報を優先する」手法と言えます。

(3)時間内得点力訓練
 仕上げは「過去問演習」による実戦力養成ということになりますが、「限られた試験時間内で合格ラインを超える得点を確実に取る」ことがテーマです。
①無制限1本勝負で取り組んだ場合、合格ラインを超えるかどうか

 「時間内」得点力が問題なわけですが、最初は時間の制限を外します。「時間の制限が無いなら、合格ラインを超える力があるかどうか」がまず問題になるからです。「時間制限が無ければ合格ラインを超えられる力がある」なら、次は「タイムアタック」を重ねてスピードアップを図り、「時間内得点力」を目指せばいいということになります。逆に時間制限が無いのに合格ラインを超えられないなら、タイムアタックをしてもカンに走るだけで、いくら回数を重ねても実力アップにつながりません。
②「本番は1割減」と考えて、「1割アップの得点力」を目指す
 実際には本番では、頭が真白になったり、周りの人のカリカリが異常に気になったり、絶望感にかられたり、尋常ではない状況に陥ることがしばしばです。たまに奇蹟が起こることもありますが、全科目にわたって奇蹟が起こることも普通ありませんし、当てにするのは危険すぎるので、「本番は1割減」と考えて準備しておくのが現実的です。過去問演習で90点を超えたことがあるから本番でも超えるとは限らず、90点超えが数回しかないのなら80点台に落ち着くのが普通でしょう。逆に何とか80点台に踏みとどまりたいと思うのなら、練習段階で90点台を連発しておかなければなりません。
③過去問は2度、3度繰り返し取り組む
 過去問は1度やっただけでは「傾向とレベルの把握」「現状データの確保」だけに終わりかねません。課題が明確になったら、弱点を強化・克服してこそ意味があるのであり、2度目、3度目では限りなくパーフェクト解答を目指して「解答作り」に取り組むべきです。逆に2度目、3度目なのに同じ間違いを繰り返していたり、答案レベルが大きく上がっていないとしたら、「勉強効率」に問題があることになります。過去問入手に限度があり、数がこなせないとなったら、模試問題の活用、類似問題の活用にシフトしていきます。
④良質の問題をたくさんこなした分だけ「合格確率」が上がる
 東大や医学部を始めとする上位難関大学・学部の場合、理想形は高校2年の2学期までに3年までの内容を終了させ、3学期からまるまる1年間かけて様々な「過去問演習」に没頭することだとされます。これは「良質の問題をたくさんこなした分だけ合格確率が上がる」からで、「良質の問題」の典型が「過去問」だからです。ところで、受験生の中には「こんな大学の問題やったって、自分はここ受けないし、出題パターンが違う」といって、予備校の授業を批判したり、演習材料に文句をつけたりする人がたまにいますが(昔の司法試験などもそうでしたが、受験経験・知識だけは豊富な多浪生に多く見られます)、試験はあくまで「来た球を打つ」のであり、予測可能な部分(出題パターン)もありますが、いつそれまでとは違う新規パターンを出されても文句言えないわけですから、幅広い訓練と練習を行なっておくことは当然と言えるでしょう。

【英作文】
 いわゆる「話す」「聞く」「読む」「書く」の4つの基本的言語能力の中で、最後に位置するのが「書く」能力です。日本人でも日本語が使えるのは当たり前ですが、文法を自覚できていなかったり、文章が上手でない人もたくさんいるように、英語ネイティブでも文法的説明ができなかったり、文章が下手だったりするのは普通のことです。したがって、ノン・ネイティブとしては「文法的理解」「作文能力」の向上はネイティブに対抗する有力な武器にもなるわけです。
 また、英語力を短期間で引き上げようとすれば、「単語」「文法」のインプット系に対して、「読解」がその応用たるアウトプット系として有効なのですが、「読解」以上に効果が大きいのが「作文」です。これは自分の手持ちの単語・熟語・文法・構文の知識を総動員してもまだ足りず、調べたり、考えたり、無いものをどっかから持ってきてでも形化しないといけないからで、「強制的アウトプット法」と言えます。基本は「1日1題」に全力で取り組むことですが、そうすると、不思議なもので、1~2ヶ月も続けると、英語の知識と理解が骨身に付くようになり、英語力の足腰が強化されて、インプットの器そのものが拡大されてくるのです。インプットをどんなに頑張っても器が小さいと、「新しいことを覚えると、昔覚えたことを忘れてしまう」という嘆かわしい状況になってしまうのですが、無理矢理にでもアウトプットに取り組んでいると、器そのものが拡大されて、よりたくさんのものがインプットできるようになるのですから不思議です。国語でも「書く力」を訓練していくと、「読解力」も強化されていき、知らないうちに「国語力」が総合的にアップするということが起こってきます。

(1)和文和訳
 「情緒的言語」である日本語は、そのままでは「論理的言語」である英語に訳しにくい面があります。あるフランス人言語学者は日本の映画で、医師に想いを寄せている看護師が「好きよ」と告白する場面を見て、「訳せない!」と絶叫したことで知られています。日本人ならどうということのない、ありふれた場面で、特に理解に苦しむ表現でも何でもないのですが、ここには「主語」どころから「動詞」すらなく、「名詞+助詞」という単なる「名詞文」という構造が浮かび上がってくるのです。日本語では状況設定が言語の中に取り込まれ、当事者には明らかな要素が省略されていって、あたかも「省略の美学」でも持っているかのようです。これに対して、英語の5文型を持ち出すまでもなく、ヨーロッパ言語では基本的に「主語+述語」構造が取られ、「何がどうした」ということを表現せずにはおれないようになっているのです。この他にも英語には、「時制の明確化」「単数・複数の数の明確化」「否定構文」(無いものがある、のような発想は日本語ダイレクトの発想ではなかなか出てきません)といった日本語との特徴的違いがあるので、まず「日本語らしい日本語」を「論理的な日本語」「英語に変換しやすい日本語」に「和文和訳」する必要があるわけです。こうした日本語を「中間日本語」とも言いますが、英文を「直読・直解・直訳」した時に出て来る日本語がまさにこれです。これを逆の立場から攻めていくのが「和文和訳」の作業ということになります。
(2)和文英訳
 かくして、「論理的日本語」「中間日本語」に理解し直され、変換された上で、今度は「和文英訳」の作業となっていきます。英語に強い「時制意識」「数意識」にも注意しながら、主語、構文、単語を決定していきますが、日本人が間違いやすいのはむしろ「冠詞」の問題であると言います。難しい構文や単語を避け、手持ちの知識で極力対応して、無駄な失点を防がなければならないのですが、「ここは不定冠詞aが付くのか、定冠詞theが付くのか」といった問題は意外に難しく、日本人はやたらとtheを付け過ぎと指摘されています。ここで所有代名詞で逃げたり、複数形でごまかす手もよく使われます。
 また、添削していて判断が難しいのは、「文法的には間違いないが、こういう言い方があるのか?」といったケースです。これはノン・ネイティブの限界なので、ネイティブ・チェックを受けたいところですが、基本的には「文法中心主義」と「文例中心主義」という2つの立場があり、「文例中心主義」が優先されると考えましょう。アメリカへ大学院留学した際に「日本人離れした英語を書く」と評判だった人によれば、英文を書く際に「和英辞書」は一切使わず、「英和辞書」と「文例辞典」で「文例確認」を行い、文例が確認できない文はばっさり切り捨てていったと言います。とんでもない文章を書いてきて、「どこが悪いんですか?大体こんなもんでいいじゃないですか?」と開き直る人もいますが、それではいつまで経っても作文力が伸びません。単語を調べるだけではなく、文例を確認する地味な作業が不可欠なのです。今ではネットで簡単に「文例確認」ができますから、ある程度の文例が確認できるような良しと考え、ほとんど確認できないか、あってもごくわずかしか見当たらないとしたらあまり一般的な表現ではないと考えて、潔く捨てましょう。

(3)添削と仕上げ
 演習書に「直訳例」「意訳例」など、複数解答例が載っているのが普通なので、それを見て「自己添削」するのが基本ですが、厄介なのは「自分の作文は解答例とは違うが、これは正解と言えるのか?あるいはこれではダメなのか?」といった判断ができない場合です。これは見る人に見てもらう以外に方法がありません。「英作文」と「英会話」だけは自己学習に限界がある分野であると言ってもいいのです。逆に見てくれる人が確保できているのなら、「英作文」は差をつける分野になるわけです。そして、書いて添削を受けて、それで完結するのではなく、さらに修正して仕上げてこそ完結するのだということを忘れてはいけません。問題集をこなしている割に伸びない人は、「仕上げ」まで行っていないからで、ここまで行かないとただ単に書いた経験があるだけで、同じような作文例にぶつかった時にまた同じようなレベルの答案を書いてしまうのです。当然、問題集も2~3回転させていく必要があるでしょう。

【リスニング】
 「英作文」以上に厄介なのが「リスニング」対策です。これは音感・語感の差や経験の差も大きく左右します。帰国子女がリスニング問題を聞きながら、内容の面白さに思わず笑って、8割コンスタントで取ってくるかと思えば、海外経験はゼロながら、高1から地味にiPodでリスニング教材を聞き続け、9割を叩き出すような猛者もいます。英語圏留学の場合でも、日常生活に不自由しなくなるのに最低6か月は必要とされますので、とにかく「絶対量」が必要であることは言うまでもなく、なるべく早くから手をつけ、日々一定量を聞き続ける「習慣」を確立することがカギになるでしょう。苦手な人は大体高2の秋から手をつけ始めていますし、意識がある人は中学段階から開始しています。リスニングに限らず、勉強全般に言える大原則ですが、「早く始めた人が絶対的に有利で、遅くなればなるほど不利になる」状況は変わりません。
 ただ、この分野は他の分野と違って、まだ「絶対の1冊」「伝統の1冊」と呼べるような名著・名教材と言えるものがなく、各自の相性と判断に任せられているのが現状です。体験談の中で良いとされているものの中からいくつか試してみて(こればっかりは店頭でチェックできません)、「自分の1冊」に巡り会うことだと思います。

科目別本格的勉強法:数学編

【小学校算数】
  小学校の「算数」の本質は「計算」にありますが、その特徴は「具体性」(目で見て分かりやすい)、「現実性」(身の回りのことに結び付けやすい)、「実利性」(知っていると役に立つ)にあると言えます。
実際、江戸時代の寺子屋での教育(初等教育)でも「読み」「書き」「そろばん」が3本柱でしたが、前二者がリテラシー(基本的読み書き能力)で、「そろばん」は「計算・勘定」に関わるものですから、生活上欠かせない基本的能力として重視されたということでしょう。今日であれば、小学校2年生で「筆算」と「九九」を覚え、小学校4年生で「小数」「分数」が出て来て、小学校5年で「三角形」「四角形」「円」といった基本図形の面積公式を学び、小学校6年では「立方体」の体積まで扱います。ここで「代数」(数学の中で特に数そのものについて扱う分野)と「幾何」(数学の中で図形について扱う分野)に関する基本的知識、計算方法を学び終えたことになるわけです。
 もちろん、小学校の「算数」でも「発想」は要求され、高学年になるほどその比重とレベルは上がっていきますが、基本的にはあくまで「計算」が主体であり、「発想」といっても理解が困難というレベルではなく、「尺度認識」(目盛りを読む。時間認識をこれに入れてもいいですね)、「単位互換」(km⇔m⇔cm⇔mm、kg⇔g、l⇔dl⇔ml)といった「発想の転換」から始まって、せいぜいクイズ的な「発想の拡張」「逆転の発想」(別な角度から考えてみる。アルキメデスが王様から黄金の王冠がニセモノではないか確かめてほしいと問われて、風呂に入った途端、同じ目方の黄金と王冠をそれぞれ水に入れて、あふれた水の量を比較すればいいと気づいて、「エウレーカ〔我、発見せり〕、エウレーカ!」と叫んだことが思い出されますね)どまりです。

(1)計算力強化
 小学校の「算数」からしてダメだったという人は基本的には「計算力」に問題があったというケースになります(もちろん、小学校レベルでの「発想の転換」「発想の拡張」「逆転の発想」でも最初はなかなか難しいものですが)。端的に言えば「計算スピードが遅い」ということになるでしょう。なぜなら、「基本スキル」である「計算」には「正確さ」と「速さ」という2つの要素が要求されますが、最終的には「計算スピードの中にその人の計算力が表われる」と言っても過言ではないからです。逆に言えば、この段階で十分な訓練が出来ていないと、すなわち計算が遅いままだと、「算数」が苦手なままで放置されている状態ですから、この「計算力」をベースとして、より高度な発想を扱う「数学」の段階に入った時、挫折するのは目に見えているわけです。
 そこで対症療法としては、「簡単な計算を何度も繰り返して正確さ・速度を上げる」ということになります。今流行の「100マス計算」もここにスポットを当てているとも言え、こうした「計算」のみならず、「音読」などといった「単純作業」が脳や反射神経に刺激を与え、活性化やボケ防止に効果があることが知られています。実際、小学校の「算数」レベルの「計算」は「時間さえかければ誰でもできる」ものですから、この段階で挫折した思いのある人は思い切って小学校の教科書を買って来て、一通り目を通し(6年分といえども6年かかるわけではありません。わずか数日、数週間で全ておさらいすることはいくらでもできます)、そこに出て来るような簡単な計算問題を次から次へとこなしてくのが結局早道ということになります。実際にこの方法を実践して数学が大得意になったのみならず、その成果は他の科目にも波及して成績が急上昇し、自信がついたためか、スポーツも人間関係も充実して、ついには大学卒業後、大手化学メーカーに就職して副社長にまでなったケースが報告されています(小学校の算数が苦手だった人が理系のトップ・エリートにまでなってしまったということです)。

(2)小学生の3大関門は「小数・分数」「単位互換」「文章題」
 小学校の算数から苦手だった人は、まず「基本ツール」が自分のモノになっているか確認し、「計算スピード」を上げるよう訓練して(「数字慣れ」が必要です)、「小学生の3大関門」とされる「小数・分数」「単位互換」「文章題」に集中的に取り組めば良いということになります。
①算数の「基本ツール」
 九九、筆算、計算のルール(加減よりも乗除が優先、割り算は逆数の掛け算、( )内が優先、四捨五入など)、面積公式(四角形、三角形、円)、三角形の内角の和、円周率、体積公式(直方体)、倍数・約数、平均、道のり・速さ・時間の公式、グラフなどです。
②小数・分数
 小学4年から学び始めますが、小数・分数を互換したり、小数が入った筆算のルールや分数の通分・約分が分からない子は多いです。
③単位互換
 長さ(mm⇔cm⇔m⇔km)、重さ(mg⇔g⇔kg)、量(ml⇔dl⇔l⇔kl)、広さ(cm2⇔m2⇔a⇔ha⇔km2)、体積(cm3⇔m3)、時間(日⇔時間⇔分⇔秒)、速さ(時速⇔分速⇔秒速)割合(%⇔割・分・厘⇔小数)などです。m(ミリ)は千分の一、c(センチ)は百分の一、d(デシ)は十分の一、k(キロ)は千倍を表わすことを知っておくといいですね。
④文章題
 小学1年からでも問題の意味が取れない子はいますが、問題の意味する所を数式に置き換えられない子は小学3~4年から急増します。「食塩水の濃度」「道のり・速さ・時間の関係」「原価・定価・売値の関係」などは小学生が苦手にしやすい典型問題で、中学生・高校生になってもまだ苦手にしている生徒はたくさんいます。

(3)「出来るようになること」が最善の特効薬
 算数が苦手になってくると、「出来ない」→「おもしろくない」→「やらない」という悪循環にはまってきます。こうした生徒への指導で、効果を上げた方法は共通しており、それは「規則正しい生活」と「基礎の徹底」から始まっています。そうすると、「出来るようになる」→「おもしろくなる」→「ほっといてもやるようになる」という好循環が生まれてくるのです。

(4)算数から数学へ
 そもそも「算数」と「数学」の違いは何か、ということが問題になりますが、前者の本質は「計算」(calculation)にあり、後者の本質は「数理」(数的論理、logos)にあることが分かります。教育原理の言葉で言えば、前者の教育は「実質陶冶」(覚えた分だけ利益になる)に相当し、後者の教育は「形式陶冶」(思考のフレームワークを形成する)に相当するとも言えるでしょう。
もう少し詳しく見ていくと、元々、数学には「計算」と「発想」という2つの要素があるのですが、小学校の算数は「計算」から始まり、高学年になると次第に「発想」が入ってきて、中学校になるとさらに「発想」の比重が高まり、高校以上になると「発想」自体が高度化してくることが分かります。この関係を図示してみましょう。

 したがって、小学校での挫折は「計算力」の問題、中学校での挫折は「新しい発想への対応」の問題、高校での挫折は「発想の高度化」の問題と言い換えることができるでしょう。まず、この点を明確にすることが重要なことです。  例えば、ノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインは、ベルリンの市電でおつりの計算を間違えて、車掌から「あなたの欠点は算数ができないことですね」と言われたことがあり、いわゆる計算は「苦手」だったようです。ところが、「自分が光と同じ速さで移動したらどうなるか?」などと突拍子もない「発想」をして、壮大な相対性理論の世界を構築したのです。
 あるいは、現代数学の礎を築いた大数学者ヒルベルトも、その原論文には無数の「計算間違い」があったことは有名です。ところが、こうした細部の誤りにもかかわらず、最終的には正しい結果を導き出しているのです。「直観」と「想像力」でゴールには最初から到達していたのでしょう(アインシュタインも相対性理論の研究に7年もかけていますが、論文自体はわずか5週間で書き上げています。「計算」は「後付」ということですね)。
 さらに「数学の帝王」と称されたドイツの天才数学者ガウスも、小学校の頃、先生から「1から40まで足したらいくらになるか?」という問題を出されて、クラスメート達が四苦八苦しているところに、あっという間に答を出して、相当時間はかかるだろうと思っていた先生をあっと言わせたことは有名です。クラスメート達は順番に1+2+3+4+・・・と「計算」を一生懸命していたのですが、ガウスは1+40は41、2+39も41、3+38も41、これが20個できるので、41×20=820と「発想」したのです。つまり、クラスメート達は「算数」をしていたのに対し、ガウス1人は「数学」をやっていたわけですね(これは幾何的には平行四辺形の面積と同じで、代数的には三角数の和、数列的には等差数列の和として考えます)。

【中学校数学】
 中学校の数学になると、文字x, yを使ったり、πだのrだのを使って「公式の記号化」が出てきたりします。つまり、中学校の「数学」の特徴は「抽象性」(現実性、実利性が薄れていく)、「一般性」(個別性を離れていく)、「汎用性」(いろいろなケースに応用することができる)を帯びてくることにあると言ってもよいでしょう。つまり、中学校の「数学」では「発想」の部分で「抽象化」が起きてくるわけです。
 ここで、「計算」が得意な子でも行き詰るケースが出て来ます。例えば、そろばんが得意で暗算はすごくできるのに、数学の問題を解くのは苦手という場合がありますが、これは「新しい発想」になじみきれないために起きて来ます。つまり、新たに「抽象的思考」が要求されるために生じる現象です。中学校の数学では「数の概念」が拡大され、「負の数」や「無理数」が出て来て、そろばんで扱っているような「現実的な数」(これは「自然数」の世界です)を超えてくるわけです。
あるいは、計算問題はできても、文章問題になると弱いというケースもありますが、これは「文意」の中にある「数的論理」(結局、何が問題とされているか)や「数的連関」(結局、何を求めれば解答に至るか)をつかめていないために起こります(「数理による再構成」ができないということです)。大体、国語・英語・数学といった基本教科において、要求されている力は「論理的思考力」にあると言えますから、「基礎的知識」(国語なら漢字・文法、英語なら単語・熟語・文法、数学なら基本公式)を覚える段階を超えれば、「本質」は一緒になります。試験でも「どう思うか」といった人の数だけ答があるような「主観的感性」を問う問題は出すことが出来ず(そもそも「内面の自由」は絶対的自由権ですから、それについてあれこれ評価することはできません。どうしてもこうした人間性の部分を見たければ「面接」「小論文」といった「人物評価」の試験形式にするしかないのです)、「何のテーマに関して、何を根拠に、どこまで論じられているか」「1なる解答にどこまで到達できているか」といった「客観的思考力」のみが「能力の差」として問われるわけです(そもそも試験は「入学させるため」に行われるのではなく、「落とすため」に行われるものです。何たって「定員」があるわけですから)。
では、「計算」の進展と共に生じた「数の概念」の拡大(「より上位の包括的概念」が現われ、いわゆる「パラダイム・シフト」が起きていることが分かります)という観点から、中学校数学の位置付けをしてみましょう。端的に言えば、次のようになります。
数の概念 扱う数学
自然数、整数 小学校低学年の算数
有理数 小学校高学年の算数(特に小学校4年以上)
実数 中学校の数学(特に中学校3年以上)
複素数 高校以上の数学(特に高校2年以上)
①自然数(natural number)
 元々、「数」(number)は「数える」(count)という動作・行為と不可分な関係にありますから、数の出発点は1, 2, 3, ・・・といった「個数」や「順序」を表わす「自然数」になります。ただ、民族によって、区別しているのは「1」「2」「多」だけであったり、「100以上」を表わす概念は無かったりするわけです。対応しているのは小学校低学年の算数です。

②整数(integral number)
 ところが、自然数だけだと「引き算」で無理が生じてきます。「ある数」から「同じ数」を引けば「0」になってしまいますし、「より大きな数」を引けば「負の数」が出て来るからです。実際、現実生活における「数える」という行為の中だけでは、「0を3個持ってきて」とか「バナナを-3本ちょうだい」などということはあり得ないわけです。そこで、「0」(これはインドで発見され、アラビアでこの表記を得ました)と「負の数」(negative number、これも商取引などの必要性からインドで発見されました)を加えて、「整数」なる概念が現われ、従来の「自然数」はその中の「正の数」(positive number)であると認識されるようになりました。そして、ここから「数直線」(number line)が登場してくるわけです。これも小学校低学年(「負の数」の計算そのものは中学校1年で学びます)の算数に相当します。

③有理数(rational number)
 「整数」の計算では「割り算」の時に無理が生じます。「割り切れる数」だけでなく、「割り切れない数」が出て来るからです。そこで、次のような形で表わされる「有理数」の概念が登場しました。
n m (n, mは整数、m≠0)
 「ratio」とは「比」のことですから、「整数の比で表わされる数」ということになりましょう。「有理数」の中では「分数」(fraction, broken number)が比較的早く発見され、それから大分遅れて「小数」(decimal fraction)が発見されました。特に「小数」は「有限小数」(0.5, 1.75など、terminating decimal)と「無限小数」(infinite decimal)がありますが、「有限小数」及び「無限小数」の中の「循環小数」(0.333・・・など、recurring decimal)のみが「有理数」に属します。「小数」「分数」は小学校4年から学びますので、これは小学校高学年の算数の世界であると言えましょう。
 ここで問題を1つ出してみましょう。
【問題】循環小数0.12121212・・・を分数の形に直せ。
【発想】循環小数は有理数ですから、必ず分数表記されるはずですが、無限に続くものをどうやって扱うの?といったところですね。これは両辺を100倍して元の式を引いて「無限」を消せばいいと「発想」するのです。
x = 0.12121212   ・・・① 両辺を100倍すると・・・
100 x = 12.121212  ・・・② ②から①を引くと・・・
99 x = 12        アラ、不思議、「無限」が消えました!
 ∴  x = 12 99 = 4 33  となるわけです。
 これと同じ発想を等比数列の和(等比級数)でも使います。実に数学の歴史の中で、こうした「すぐれもののアイデア」(この場合、無限に続く小数を無限に計算しなくても、単純な掛け算と引き算だけで消去してしまう)があちこちにちりばめられており、これを普通は単純に「受験テクニック」として学んでいくわけですが、まずもって「アイデアのすばらしさ」そのものに「感動」する「心、感性」の方が重要だと言えるでしょう(無味乾燥な「公式」をひたすら覚え込むより、「頭いいなー、コイツやるな!」「誰がこんなこと考えたんだろう?」などと考え、感じながら、アイデアそのものを自分のモノにしていく方が楽しいに決まっていますね)。

④実数(real number)
 「小数」の中で「有理数」の範囲に収まらないもの、それが「循環しない無限小数」ですが、これを「無理数」(irrational number)と言います。そして、「有理数」と「無理数」を合わせて「実数」という概念が生まれて来ました。こうして見ると、何だか「有理数」には「道理」があって、「無理数」には「無理」があるかのようですが、「比で表わされる数」「比では表わされない数」ということですから、「有比数」「無比数」と言ってもいいぐらいでしょう。この「無理数」の存在自体は測量・図形といった「幾何」の計算で出て来るので、古代エジプト・ギリシアの時代から知られていました。
 例えば、有名な「ピタゴラスの定理」(三平方の定理、直角三角形の斜辺の2乗は他の2辺の2乗の和に等しい)でも、直角二等辺三角形の場合、三辺の比は1:1: 2 (ルート2、2乗すると2になる数)になるわけです(もっとも宗教的秘密結社であったピタゴラス教団においては、「無理数」はタブーであり、その存在をもらした者には死が待っていたと言います)。あるいは「円」において、「円周」を「直径」で割れば「円周率」πが出ますが、これも「超越数」(いわゆる「方程式」〔正確に言うと整係数の代数方程式〕の解にならない実数、代数的数でない実数、transcendental number)と呼ばれる「無理数」です。これは円を扱う上で欠かせない数字と言えますが、そもそも図形の中で最も基本的なものは「円」(曲線図形の中の最単純形で、周囲が同じ長さの図形の中で面積は最大となる)と「三角形」(直線図形の中の最小角形であり、他の直線図形は全て三角形の和から成る)ですから、「測量術」から発達した「幾何学」でもこうした「無理数」を「数の体系」の中に組み込まざるを得なかったのです。かくして「実数」なる概念が打ち出され、「現実的な数」が全て網羅され、「数直線」は「連続体」として完結しました。
2 = 1.41421356 (一夜〔ひとよ〕一夜に人見頃〔ひとみごろ〕・・・)
3 = 1.7320508 (人並みにおごれや・・・)
e (「自然対数の底」と呼ばれる「超越数」です。超重要な数なので、高校3年の数Ⅲで学びます) = 2.718281828
π = 3.141592653589793 身一つ世一つ生(い)くに無意味、いわく泣く身・・・)
こうした「無理数」を本格的に学び始めるのは中学校3年からですから、「実数」は中学校数学の世界であると言ってもよいでしょう。

⑤複素数  「未知数」を求める際に「方程式」(equation)を用いますが、「未知数」(「変数」〔variable〕とも言います)xの1次式を使って問題を解くことを「1次方程式(linear equation)を解く」と言い(方程式を成り立たせる文字の値を「解」(solution)と言います)、一般的には次のように表わされます。
ax + b = 0 (a, bは実数、 a 0 ) ∴  x = b a
 さらに未知数が2つ以上あれば、「連立方程式(simultaneous equation)をつくる」ことになります。例えばx, yの2つの未知数(「元」〔げん、element, member〕とも言います)を使った連立方程式は「2元連立方程式」(simultaneous equation with two unknowns)と言います。小学校で紹介されたりするいわゆる「鶴亀算」(「鶴と亀が合わせて7つ、足は合わせて22本、さて鶴は何羽、亀は何匹?」といった問題ですが、「そんなの見たら分かるじゃん!」という根強い批判もある計算です)などもここで「抽象化」「一般化」されます(例: x + y = 7 2 x + 4 y = 22 の連立方程式を解く)。基本的に未知数の数だけ連立方程式があれば、「解」を求めることができるということは知っておくとよいでしょう。
 そして、2次方程式の「計算」の段階に至った時、「実数」の範囲に収まらない数が出て来たのです。一般的に2次方程式は次のように表わされます。
ax 2 + bx + c = 0 (a, b, cは実数、 a 0 ))  x = b ± b 2 4 ac 2 a
 2次方程式自体は中学校3年で学びますが、「一般解」を求めるこの「解の公式」(インドで7世紀頃に発見されました)は高校1年の数Ⅰで学びます。ここでのルートの中の b 2 4 ac が「正の数」「0」ならxは「実数解」となりますが、「負の数」の場合が困るのです。そこで b 2 4 ac を「判別式D」と名付け、「解が2つ」「解が1つ」「解なし」の3つのパターンの見極めのポイントとされました。数Ⅰではこれをグラフと結び付けて学び、「代数」と「幾何」を「座標平面」という統一された場で扱います。ちなみにこれはデカルトが発明した革命的アイデアで、「デカルト座標」「直交座標」とも言います。なぜなら「代数」という「数」の問題を「幾何」的に目で見て考えることができるようになったからです。別物と思われていたものが、実は「同じ物の別表現」であることが分かったわけです。
ところで、2次方程式の「解の公式」を突き詰めていくと、やはり2乗すると「負の数」になるような数の存在を想定せざるを得ません。そこで「虚数」(imaginary number)なる「概念」が出され、2乗すると-1になる数を「虚数単位i」( i = 1 i 2 = 1 。なぜ2乗するとー2になる数でもなく、-3になる数でもないかというと、これらは全て虚数単位の実数倍で表現されてしまうので、虚数単位さえ設定してあればいいからです)と名付け、「実数」と「虚数」を合わせた「複素数」(complex number)なる「数の概念」が出て来たのです。ただし、「虚数」といっても、これはあくまで「実」(現実的数量として把握できる数)に対する「虚」(現実的数量ではないが、数学的実在として想定できる数。いわゆる「霊的世界」などもこの虚数の観点で説明できるのではないか、と考察を試みるニューサイエンティストもいます)であって、決して「空しい、空虚な数」ということではありません。「複素数」は一般的に次のように表現されます。
a + bi (a, bは実数)
 つまり、従来の「実数」は「複素数」の中の「虚部」がゼロ(b=0)の数(「実部」のみ)の数であることが分かったのです。これは高校2年の数Ⅱで初めて学び、大学で本格的に学ぶ内容ですので、高校数学以上の世界(特に高校2年以上)であると言えるでしょう。この「複素数」は「数」における「最上位概念」「最大包括概念」であり、これ以上の体系はありません。したがって、これを学ばずして、数学のフィールドを自由に行き来することは出来ないと言っても過言ではないのです(というより、これを知らないとはっきり言ってソンです!ああ、もったいない、もったいない)。
 さて、話が高校数学のレベルを超えて進んでしまいましたが、ここで中学校数学が苦手な場合の対症療法です。改めて整理すると、中学校数学で挫折するのは次の2パターンということになります。
①小学校時代から「計算スピード」が遅く、苦手を引きずっていた。
②新たに出て来た「抽象的思考」に対応し切れなかった。
 ①の場合は「計算のやり直し、スピードアップ化」が有効ですが、②の場合は有効なのが「証明問題」です。丸暗記型の人間なら、証明の結果、得られたものを公式として丸覚えするところですが、「どうしてそうなるのか」という「証明」を自ら「追認」(物理なら「追実験」となります)することで、その「数的論理」を自分のモノにする必要があるわけです。そもそも中学校数学のレベルは、数学史で言えば大体1600年代前半までのレベル(デカルト)であり、高校数学・物理のレベルは大体1600年代後半から1700年代前半のレベル(ライプニッツ、ニュートン)です。さらに1700年代後半以降の数学(オイラー、ガウス)は大学レベルと言ってもいいでしょう。だんだん丸暗記で対処できなくなってくるのは一目瞭然です。したがって、先人達の発想をより洗練されたエレガントな方法で効率よく吸収していくのが数学の勉強であると言ってもよく(シュプランガーの文化教育学の観点で言えば、「数学教育」ほど、典型的な「人類の歴史的遺産の相続」はないと言えるでしょう)、本来なら天才でないと思いつかないようなアイデアの数々を現代人であるということだけで、中学、高校ですでに自分のモノにできるという「時代的恩恵」をむしろかみしめるべきではないでしょうか(実はすごいことを勉強しているんです。まあ、今は小学生でもパソコンやケータイを使いこなし、ゲーム機器も驚くほどのハイテクですから、昔の人から見れば信じられないことでしょう)。実際、ドラえもんのタイムマシンに乗って、今の中学生、高校生が1600年代、1700年代に行けば、きっと天才扱いされることでしょう(例えば、ニュートンの講義は難しすぎて聴く人がいなかったと言います。ところが、今の高校生で理系の子なら「何だ、これ、微分じゃん!」「万有引力のことでしょう?4つの力のうちの1つなんだよね。」と感想をもらすかもしれません)。

【高校数学】
 高校の数学になると、いわゆる学問としての数学の基礎としての「概念」が出て来ます。それも1年生段階ですと「基礎の基礎」であり、中学校数学の延長で対応することもできますが、2年生以上レベルになると複素数・ベクトル・行列・微分・積分など、日常的に使う人がごく限られる「基礎概念」を学ぶので、「一体何のためにこれを学んでいるのか」「公式を当てはめて答は出るけど、意味が分からない」という苦しい状況に追い込まれることになります。しかし、逆にこうした基礎概念抜きに、その先に待っている「数学の豊穣なる世界」を理解することはできません。実際、ここまでくると、現実との直接的つながりはほぼ断ち切られ、まさに「数学の数学たる所以」の世界に突入すると言ってもいいでしょう。いくら2次関数の放物線は弾丸の軌道とか、サイン・コサイン・タンジェントと三角比は測量で使うとか言われても、ほとんどの人の現実生活、日常生活とは無縁のものでしょう。あるいは確率とか微分は経済学でも必要、理系に進んでコンデンサーを学ぶ上で複素関数は不可欠であるとしても、一般ピープルにベクトルの内積や行列計算など「我に何の関わりあらんや」と言いたくなるところです。
 実は数学とは「抽象論理」そのもので、応用数学の世界の代表が物理の世界です(さらに数学の導入で成功した物理学に倣ったのが経済学の世界です)。「算数」の段階では苦手ではあっても「やればできる」と言えますが、数学の本来的フィールドではいくつかの条件を満たさないかぎり、「やってもできない」ということになってきます。その前提条件の1つが「抽象論理」としての「概念」を駆使できるかどうかにあるのです。この「抽象化」は数学に限らず、全ての近代学問の特徴でもあり、合理主義の行き着いた地点として爆発的な影響力を持ちました。例えば、経済学におけるモデル・ビルディングなどもそうですし、経済の根幹にある「契約」が「抽象化」されておらず、相手との人間関係(血縁、コネ、賄賂など)によって左右されるような個別性があるようであれば、近代的市場も近代資本主義も成立しないことが明らかになっています(「近代的所有権とは抽象的・絶対的・直和的〔誰に属するかが一義的に決まる〕でなければならない」と表現されます)。

(1)「定義」の確認と「公式」の理解・暗記は全ての基本
「定義」=用語について、その意味内容を正確に定めること、または定めた意味。数学はここから出発して、巨大な体系・世界を構築しています。定義とはいわば根本原理であり、あらゆる性質(定理や公式)はこの定義から論理的に導かれなくてはいけません。数学は「論理」を最も大切にする学問であり、その「論理」は誰に対しても同じ結論に導くものでなければならないので、そのためにはまず用語や記号の意味が明確でなければならず、それ故、数学は定義にうるさくなるのです。
「公理」=定義から何の前提もなく、正しいと分かる事柄。全ての議論の前提となる最も基本的な仮定。数学という学問としては、こうした証明なしに採用される数少ない基本仮定を出発点に置き、それらの公理だけから厳密な演繹(論理の展開)によって全ての結果を導き出す構造にしたいわけです。
「定理」=定義と公理から、第三者が理解できないようなジャンプをせずに説明できる事柄。定理を数式で表わすと、「公式」となります。例)三平方の定理、正弦定理、余弦定理など。
「公式」=証明されたものですから、誰がやっても同じ結果となります。変数を使って一般的に表記してありますが、そこに具体的数値を入れていけば答えが自動的に出るわけですから、計算の手間を省く便利な道具だと考えるべきです。したがって、どれくらいの公式を使いこなせるかは用途に応じた道具立てということになりますので、充実していればいるほど対応力が増すことは当然のことです。

(2)「設問」読解と「条件」の数式化がカギ
「設問」読解の意義=実は「数学力」「解答力」は「問題が要求しているものを読み取る力」(一般的に言えば、「問題点の明確化」)と「そのためには何が分かる必要があるか(何が分かりさえすればいいか)を見抜く力」(一般的に言えば、「解決の筋道の明確化」)と言ってよいでしょう。「定理」や「公式」を使おうにも、そもそもそれらは「道具」ですので、「何のために使うのか」という「目的」が明確でないと使いようがないのです。
「質問」の意義=学習を進めていく上で、「質問」は不可欠ですが、実は「質問の仕方」にもコツがあり、こうした「問題点の明確化」「解決の筋道の明確化」を徹底的に追求した上で成される質問は、解答・解法・解説に接した時に格段の理解力をもたらすものです。これをいわゆる「良い質問」と言います。こうした「これを求めるためにここさえ分かればいいのに、ここがどうしても分からない」といった詰めの作業(当然、調べたり、考えたりする作業を伴う)をせずに、ただ何となくその都度成される質問は「ただの質問」であり、熱心に勉強し、質問も多いのに、なかなか伸びないという場合はこうした「質問の仕方」を再検証する必要があります。相対性理論を確立し、ノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインも、「もし私が1時間後に殺されるとしたら、最初の55分間は適切な質問を考えることに費やすだろう」と言っています。
「条件」の数式化=問題によっては「何を求めればいいか」は分かるものの、「そのためには何が分かりさえすればいいか」が分かりにくい場合があります。この時は、与えられた条件を整理して、数式で表現しておく作業が活路を開くことが多いものです(これは0≦x<3といった「定義域」の確認等でも必要な作業です)。「何が分かりさえすればいいか」という発想は「演繹的」(論理的必然性)ですが、「条件を整理していくうちに道が見えた」という解決の仕方は「帰納的」(現実的妥当性)であり、こちらがダメならあちらでどうか?と考えるべきものです。
「図式化」による視覚化=一般的に問題文に書いてある内容をまず図や数式で表わし、一目瞭然の形にするのが効果的・効率的です。頭の中だけで論理的に考えようとすると、よほどワーキングメモリ(超短期記憶装置)が強力な人でない限り、なかなか進まないものですが、図式化・視覚化して「目で考える」ようにすると誰にでも処理しやすくなるのです(この手法は新人アナウンサーの研修などでも使われています)。

(3)「パターン」(文系的ゴリゴリ)と「センス」(理系的キレイ)の違い
「パターン」攻略=「公式」をただ覚えるだけでは難しい応用問題はなかなか解けませんが、問題特有の「パターン」を知っていれば、応用力・解答力が格段についてきます。これは英語で言えば、「文法」→「構文」→「読解」のうちの「構文」に相当するものであり、数学ではこれが「公式」→「パターン」→「解法」となるわけです。「要は解ければいいんでしょ」というのが文系の基本的スタンスなので、必須・頻出「パターン」をなるべく
数学的「センス」=解法の中には「うわ、スゴイ!」「よくこんなアイデア思いついたな」などとうならせるものがありますが、これは典型的な「センス」(数学的感性)と言えるでしょう。同じ解くにしても「よりエレガントに解く」ことに美しさを感じるわけです。理系は基本的に自然科学者の卵と言ってもいい所があり、これは「科学者の基本的感性・特性」と言ってもいいかもしれません(「数式は美しくなければならない」という信念を持っている人は多いのです)。
「怠け者の発想」=受験ではあくまでも「答えがある問題」を扱いますので(「答えがあるか無いか」というような「存在問題」は難問すぎるのです。ましてや「新しい法則を発見せよ」といった問題はまず出ません)、「1なる答えに至る筋道」が「うまく」確保されればいいのです。理系的発想には「なるべくラクをしたい」というものもあり、ここから「基本原理の理解とショートカットの駆使」という手法が生まれてくるのです。

(4)「場合分け」と「論理」の2大ツールを駆使する
「場合分け」=「論理の筋道」を明確にするため、「考え得る場合を全て数え上げる」ことが有効です。これは「思考の漏れ」を無くすための方法ですが、「数学」は本来「数の学問」「数えることから始まった学問」なので、「数学の本質」に即した考え方とも言えます。
「論理」の力=「数学」を「自然科学の女王」たらしめ、「近代化」の覇権をもたらしたのも、この「論理」の力(思想的に言えば「合理主義」)に他なりません。これは「こうでもあるし、ああでもあり得る」といったあいまいさを残すものではなく、「これ以外にあり得ない」「こうであるはずだ」という「一義的決定」「必然性の思考」であり(人の数だけ答えがある「主観主義」ではなく、誰が見ても1つの答えに定まる「客観主義」です)、これに気が付けばあらゆる勉強・学問の根本は一緒だということが理解され、数学のみならず、英語も国語も全ての学力が急激に伸びてくるのです。

(5)高校数学から大学数学へ
 高校数学で不可欠な「抽象的概念」を理解するためのコツは、次の2つになります。
①ビジュアル化する。
②数学の全体系の中で位置付け・意味付けをする。
 ①はなるべくグラフや図形に表わすようにして、「目で考える」ということです。これは「抽象化」のゆえに理解が困難になってくるからで、ならば「具体化」すればいいということになるわけですが、すでに「現実性」を遠く離れているので、せいぜい「視覚化」すること止まりとなるわけです。しかし、アインシュタインをはじめとして、天才と呼ばれる人達はイマジネーションが豊かで、計算式で考えるよりもビジュアル・イメージが先行し、あとから計算して理論化すると言われますから、有効な方法であることは間違いありません。「虚数」なる現実世界に見出し難いものを座標化(ガウス平面)して扱いやすくしたガウスや、さらにそれを立体の球(リーマン球)で表現して全く新しい意味付けをしたリーマンなど、「イメージの天才」としか言いようがありません。日本で最初のフィールズ・メダリスト(フィールズ賞は「数学のノーベル賞」ですが、その難しさはノーベル賞以上であり、日本人で受賞したのは東大の小平邦彦氏、京大の広中平祐氏、森重文氏の3人だけです)となった小平邦彦氏も「数学を理解するということは、実在する数学的現象を〝見る〟ことである。〝見る〟というのは数覚によって知覚することである」と述べています。
 ②は「高校数学の意義付けは中学校数学の延長上ではできない」ということです。なぜ、高校数学でこういった内容を学ぶのか、といった必然性はもっと上の数学の要請から来るわけです。すなわち、大学での数学(高等数学、数学という学問)からの視点に立たない限り、高校数学の意義は理解できないのです。「何のためにこれを学ばないといけないのか」という疑問は「数学の壁」として必ずぶつかるものですが、それは現実的必要性から解決されるのではなく(現実に知っておくと役に立つからではないということです)、「数学的必然性」から克服されるのです。すなわち、「より上の視点から見下ろさなければ今やっていることの意味・意義は理解できない」ということです。
 例えば、「人類の至宝」とまで称えられる「オイラーの公式」(このたった1つの法則を説明するためだけに数百ページもの本が書かれたりしています)を学ぶと、それまで全く別物と思われていた複素関数、指数・対数関数、三角関数が直結し、1つの公式に流れ込んでいく様を見て取ることが出来ます。実際、虚数の意味・意義を考えつつ、複素数のフィールドをさまよっていると、このオイラーの公式に出くわした時、「衝撃」を受けるものです。式にすると「 e i θ = cos θ + i sin θ 」(といきなり言われても、訳が分かりませんね)という至ってシンプルなものですが、 θ = π の時、「 e i π = 1 」という驚くべき形を取るのです。「超越数e」を「虚数i」乗し、さらに「超越数π」乗すると、何と「実数-1」となるというのです(高校で数学ができる人なら、たいてい「iのi乗はいくらだ?」という問題を出されて、「?」となったことがあるでしょう。虚数の虚数乗なんて全くイメージできないところですが、実はこれ、実数になるのです。正確な数値は電卓が無いと計算できませんが、これが実数になることはオイラーの公式を使えば簡単に理解できます)。見方を変えれば、「全ての数を生み出す根源的な公式」(大体、あらゆる数〔複素数〕を形成する「基本的な数」は「1」「-1」「e」「π」「i」の5つと言ってもいいでしょう)を「オイラーの公式」に見ることができると言ってもいいかもしれません。これで扱えない数は「0」と「無限」だけと言ってもいいのです(これに対してリーマンは「リーマン球」を使って、「0」と「無限」まで「イメージ」の中に取り込みました)。ところが、高校ではここまで学ばないので、バラバラの知識をバラバラに覚えていくだけなのです。何ということでしょうか。
 こうして見ると、高校まで数学が得意だった人(だから理系大学に進学するわけですが)が大学に入って、数学が全然分からなくなるケースがあることも理解されます。そもそも受験エリートなるものは「解答」がある「問題」を解いて来ただけで(そもそも「解があるかどうか」ということ自体が、「存在問題」と呼ばれる大変な問題なのです)、「数学の体系的理解」をしてきたわけでは必ずしもないのです。したがって、皮肉なことですが、高校数学は本来大学受験を目的とするのではなく、大学数学を目的とし、大学数学の視点から教育されるべきとなります。これに対して、大学受験予備校では受験対策としての技術的知識を教えるのは当然となりますが、現実には今の高校でこうした技術的知識が重宝され(予備校のノウハウを吸収しようという試みが活発になってきました)、学問的視点がほとんど無いことは残念な限りです。まあ、学習指導要領に沿って授業をしなければならないので、現場の先生にこれを要求するのは酷な話ですが。

【大学・社会人数学】
 参考までに数学の体系をざっと見ておきましょう(まあ、何と難しい名前が並んでいることですね。適当にふんふんと読み飛ばして下さい)。
①数学基礎論~論理学、集合論、自然数論など。
「集合論」は決定的に重要です。また、「必要・十分条件」を知ると、論理の幅が出てきます。「無限論」なども魅力的ですね~。ここは文系向きです。
②代数学~線形代数学、抽象代数学、整数論、ブール代数、群論など。
いわゆる「数」について扱う所です。少なくとも「複素数」は数の最大包括概念ですから、駆使できるようにしたいところです。
③解析学~位相解析、微分方程式、速度、変分法、複素関数、級数など。
数学の歴史を大きく発展させていったのはやはり「微分・積分」でしょう。「微(かす)かに分かる、分かった積(つ)もり」などとよく言われますが、これ抜きに物理はなく、経済学における「限界革命」もありませんでした。 ④幾何学~角法、ユークリッド幾何学、非ユークリッド幾何学、解析幾何、射影幾何、代数幾何、微分幾何など。 中学・高校で学ぶ図形問題は「ユークリッド幾何学」で、「初等幾何学」とも呼ばれます。これに対して、19世紀にロバチェフスキーが切り開いた新しい幾何学が「非ユークリッド幾何学」で、アインシュタインの相対性理論もこの恩恵を受けています。
⑤トポロジー~位相空間、次元、多様体、PLトポロジー、グラフ理論、結び目、不動点定理、カタストロフィ理論など。 幾何学を「変換」という観点で統合(クラインのエルランゲン・プログラム)した上で、特に量が変わらないものを扱い、「粘土の幾何学」「ゴム板の幾何学」と呼ばれます。元々はガウスに並ぶ「万能の天才」オイラー(大体、この2人は数学史上、東西横綱に位置付けられます)の「一筆(ひとふで)書き」の研究から始まりました。⑥応用数学~確率論、統計学、サイバネティクス、情報理論、ゲーム理論、大数の法則、組み合わせ理論、オペレーション・リサーチなど。 「確率論」は量子力学や経済学におけるリスク研究を決定的に推進しました。「ゲーム理論」は天才ノイマンの発明です。「大数の法則」は保険などでも利用されているもので、個々人はそれぞれ生活を送っているのに、毎年、一定の割合で事故や病気で死亡するのですから、何だか不思議な気がします(こうした「ミクロ」「マクロ」の視点は実に幅広く応用されています)。

科目別本格的勉強法:国語編

【現代文】
 現代文の主要ジャンルは「評論」「小説」「随筆」の3つですが、中でも「評論」は現代文の中心であり、基本的理解をしっかり押さえておきましょう。そもそも現代文では、主観的な「感性」や「感受性」を問うのではなく、客観的な「論理的思考力」を問うことが主体になっていることをふまえると、それが最もストレートに現れる「評論」に習熟しておく必要があると言えるのです。
ちなみに不思議なのは漢字で、「漢字はからきしダメだが、国語の点はいい」という人は皆無です。漢字力がアップすれば国語力もアップするとは一概に言えませんが、漢字力が無いのに国語力がつくということはあり得ないと言ってよいでしょう。

(1)評論
 具体的には、問題文を一読する際にラインを引いたり、キーワードを囲んだり、段落ごとの小見出しを付けたりして、文章全体の構造と論点の推移を明確にしておく必要があります。特に筆者の「主張」(言いたいこと)は「強調」という手法を通じて表現されるので、「反復」(言い換え)と「対比」に注目するとよいでしょう。さらに論理の展開は「抽象(骨格)―具体(肉付け、説明)」の繰り返しなので、「抽象」部分をつなげれば全体の要旨になることも知っておきたい所です。そして、問題文を読み始める前に著者名と書名に目を通しておいて、大体のイメージ(著者に対する予備知識がある場合)と全体のテーマ(文章全体を一言で言い表せば題名となる)を押えておくことも有効です(少し高度な技ですが)。こうした作業をあらかじめしておくと、接続詞、指示語、語句説明、空欄補充、主旨説明といった問題に対する解答が非常に容易になります。基本的に問題は文章の流れに沿って出されるので、解答は出題される該当段落(場合によってはその前後)に9割方存在していると見てさしつかえないでしょう。さらには「人生論」「科学論」「文化・文明論」「言語論」といった取り上げられやすいテーマについて、あらかじめ知識と基本的観点を吸収しておくことが有効です。

(2)小説
 これに対して、「小説」のテーマは「登場人物の心理」の描写にあります。したがって、小説を読む上でまず押さえるべきは、状況設定(いわゆる5W1H)とその推移の把握です。特に「時間」(たいてい時系列にそって場面が設定されています)と「人間関係」に注目するとよいでしょう。また、主人公をはじめとする登場人物の性格描写、内面描写に関しては直接表現と間接表現の二種類があり、直接表現はすぐに分かるのでチェックしやすいのですが、問題なのは間接表現のケースです。ここでは、「情景一致の原則」に従い、論理的に判断していく必要があるので、要注意です。つまり、ネガティブな情念に満ちた人の目にはネガティブな景色が映り、ポジティブな情念に満ちた人の目にはポジティブな景色が映るというものです。例えば、「真っ黒い空からびちょびちょみぞれが降ってきた」という表現があれば、それが目に入っている人の心も、やはり重苦しさや哀しみが満ちていると考えられるわけで、間違っても幸せ気分一杯だとはとても思えないのです。また、直接、設問として問われることはまず少ないと思われますが、代表的な表現技法として、明喩(直喩、ストレートに「~のような」と表現する)、暗喩(隠喩、「…は~だ」のように、暗に示すような表現)、擬人法(人でないものをあたかも人のように表現する)ぐらいは知っておくと良いでしょう。

(3)随筆
 さらに「評論」と「小説」の融合体とも言うべき「随筆」があります。随筆は小説的なものと評論的なものとに分かれますが、前者は「作者の心理」(⇔小説「登場人物の心理」)、後者は「作者の思想」(「主観的思想」⇔評論「客観的思想」)がテーマとなっており、客観性よりも主観性が強いのが特徴です。身近な感じがしてとっつきやすいのが随筆ですが、客観性が厳密でない分、奥が深いのも随筆です。いずれにしても、小説の読み方と評論の読み方を押さえておけば大丈夫です。

【古文】
 古文の柱は「語学的理解」「精神的理解」「歴史的理解」の3つですが、「語学的理解」の中心は何と言っても「助動詞」にあります。もっと言えば、「活用」「助動詞」「助詞」が膠着語たる日本語を大きく特徴付けていると言ってよく、これらを押さえることが重要なカギを握ることが分かります。さらに「係り結びの法則」や「敬語法」(最高敬語などが重要です)、和歌などに見られる「枕詞」「序詞」「掛詞」「縁語」といったものを覚えていけば、「古文の古文たる所以」「古文らしい特徴」を押さえたことになります。こうした「機能的理解」に対して、「意味的理解」の立場に立つならば、「現代語にないもの」「現代語と意味の違うもの」の2つをまず理解し、覚えることが肝要となります。さらにそれらの中には「をかし」「もののあはれ」といったキー概念が出て来るので、「精神的理解」にも通じることとなってくるわけです。「精神的理解」にはこの他に「生活様式」「年中行事」「宗教」「法制度」などがからんできますが、これは「歴史的理解」とも重なってきます。そこで、古文学習において「見えざる力」となってくれるのが「文学史の知識」です。これによって、「精神的理解」と「歴史的理解」を同時にクリアすることができ、「教養」として現代文にまで反映されてくる「力」となります。
 こうした「単語」「文法」「文学史」の知識をベースに、あとは問題文を通じて「読み慣れる」ことが必要ですが、その際に有効なのは「人間関係図」を必ず書くことです。古文は余りにも省略が多いため、一体、誰が誰に対して何をしているのかが分からなくなってしまうことが往々にしてありますが、人間関係を図式化することでこの失敗を避けることができます。また、設問は問題文の流れに沿っているので、ある程度のまとまりを読んではすぐに設問を読み、そこでの選択肢などを活用して「こういう内容が書いてあったのか」と確定していくのも一法です。さらに、主要な作品に関しては、ダイジェスト版などを使って、あらかじめ大まかな内容を知っておくと、問題文を読む前から「次にどういう内容が出て来るか分かってしまう」という状態になりますので、「読まずに問題が解ける」というスーパー・テクも可能になります(マイナー作品ではできません)。

(1)古文単語
「活用」=動詞・形容詞・形容動詞・助動詞は、文中での機能や後に続く語との接続から語尾変化をしますが、これを「活用」と言い、次の6つがあります。
①未然形:「ず」に続く形。(例)行かず。
②連用形:「たり」「て」に続く形。(例)行きて。
③終止形:言い切る形(後に続かない)。(例)行く。
④連体形:名詞に続く形。(例)行く時。
⑤已然形:「ど」「ども」に続く形。(例)行けども。
⑥命令形:命令して言い切る形。(例)行け。
「助動詞」=現代文・古文を問わず、日本語文章の意味・ニュアンスを知る上で、助動詞の理解・助詞は欠かせないと言えます。特に現代語に無いもの、現代語と意味が違うものに注意しましょう。
①む・むず:推量(~だろう)、意志(~しよう)、らむ:現在推量(~ているだろう)、けむ:過去推量(~しただろう) ②べし(「む」の意味を強めたもの):推量(きっと~だろう)、意志(きっと~しよう)、義務(~しなければならない)、命令(~せよ)
③ず:打消(~しない)、「え~ず」の形で「~できない」
④じ(「む」に打消の意味を加えたもの):打消推量(~しないだろう)、打消意志(~するまい)
⑤まじ(「べし」に打消の意味を加えたもの):打消推量(きっと~しないだろう)、打消意志(決して~するまい)
⑥き:過去(~た)、けり:過去(~た)、詠嘆(~なあ)
⑦り・たり:完了・存続(~てしまった、~ている)、つ・ぬ:完了・確述(~てしまう、~てしまった、~た)
⑧なり・たり:断定(~だ)
⑨らし:推定(~らしい)、なり:推定(~のように聞こえる)、めり:推定(~のように見える)
⑩る・らる:受身(~される)、尊敬(~なさる)、自発(~自然に~してしまう)、可能(~できる)
⑪す・さす・しむ:使役(~させる)、尊敬(~なさる)
⑫たし:願望(~したい)、まほし:願望(~したい)
⑬まし(「~せば・・・まし」「~ましかば・・・まし」等の形を取る):反実仮想(もし~だったら・・・なのになあ)
「助詞」=「活用する助動詞」「活用しない助詞」という違いはありますが、両者とも日本語においては決定的な働きをします。助動詞同様、現代語に無いもの、現代語と意味が違うものに注意しましょう。
①ぞ・なむ・こそ:強意、や・か:疑問、反語(~のはずがない)
係り結びの法則~ぞ・なむ・や・か→文末連体形接続、こそ→文末已然形接続
②ば:順接仮定条件(未然形接続、~ならば)、順接確定条件(已然形接続、~なので、~してみたら、~すると必ず)
③とも:逆接仮定条件(終止形接続、たとえ~しても)、ど・ども:逆接確定条件(已然形接続、~だけれども)
④つつ:反復(~しては)
⑤だに:類推(~さえ)、最小限(~だけでも) ⑥てしがな:願望(~したい)、もがな・もがもな:希求(~がほしいなあ、~だといいなあ) ⑦なむ:要望(未然形接続、~してほしい)
⑧そ(「な~そ」の形で):禁止(~するな)
⑨かし・ぞかし:念を押す(~だよ、~だね)
「基本単語」=「つとめて」(早朝、翌日早朝)といった「現代語に無い単語」、「あはれ」(しみじみとした情趣)といった「現代語と意味が違う単語」は限られていますので、これを集中的に覚えることが「記憶の経済」です。

(2)古文読解
「敬語」=尊敬語(動作主体に対して直接敬意を表わします)、謙譲語(動作主体を低めることにより、動作対象に対して間接的に敬意を表わします)、丁寧語(聞き手・読み手に敬意を表わします)の3つがあり、日本語を特色づけていますが、特に古文では「最高敬語」(尊敬語を重ねて敬意を強調します。「給ふ」が尊敬語であるのに対して、「せ給ふ」「させ給ふ」は最高敬語。敬意の対象は天皇及びそれに準ずる人に限られます)があり、人物特定の判断基準として使えるのです。
「人物相関図」=古文では主語や既出の名前の省略が異常に多いため、誰と誰がどういう関係で、何をしてどうなったのかが一読してつかみづらい場合が多々あります。そこで人物は出るはしからワクで囲み、相関関係を矢印で示したり、文章の横に図示すると、場面展開が理解しやすくなるのです。
「文学史」=『国語便覧』などで文学史にひととおり目を通し、メジャーな作品の内容を事前に知っておくと、初めて読む文章で細かい所は意味不明であっても、どういう話の筋でどういう展開になるということが分かってしまう場合があります。「旅先で女児を亡くした悲しみ」が出てくれば『土佐日記』、「旅路に出ようとする息子に対する母の悲しみ」とくれば『成尋阿闍梨母集』、「鎌倉に向う道中」であれば『十六夜日記』といった類です。

【漢文】
文法的には「返り点のルール」を押さえ、「返読文字」「再読文字」を覚えるだけですので、基本は1時間でもできてしまいます。あとは実際の文章を通じて「読み慣れ」をすることですので、「実際に口に出して読むこと」(「耳で意味を捉える」ということで、基本的に「読めば意味は通る」と言ってもいいでしょう)「基本的に教訓話として理解すること」の2つが重要です。時代的には「戦国時代」「漢代」「魏晋南北朝」に集中しており、「唐代」「宋代」がそれに次ぎます。特に前三者に関しては、歴史を先に学んでいると、理解が格段に変わってきます。「教訓話」という観点では、『蒙求』のような「教訓話集」が多く利用されるので、ダイジェスト版などで「メジャーな話」はあらかじめ知っておいた方がラクです。

(1)漢文文法
「返り点」=「レ点」(「レ」の記号の下の一字を先に読んでから上に返って読みます)、「一二点」(「二」の記号から「一」の記号までの字を先に読んでから上に返って読みます)、上下点(「下」の記号から「上」の記号までを先に読んでから上に返って読みます)などが代表的です。
「返読文字」=下の字を読んでから、上に返って読みます。
①不(ず):~しない、~ない。
②非(あらズ):~ではない(体言の否定)。
③勿・毋(なシ、なカレ):~ない(否定)、~してはいけない(禁止)。
④雖(いへどモ):~だが、仮に~であっても。
⑤所以(ゆゑん):理由・目的・方法・対象を示す。
⑥自・従(よリ):~から(起点・出所)。
⑦由(よッテ):~を拠り所にして。
⑧与(と):~と・・・とは。
⑨如・若(ごとシ):~のようである(比況)。
⑩見・被(る・らル):~(ら)れる、~される(受身)。
⑪使・令・教・遣(しム):使役を表わす。
「再読文字」=最初に読んで、次に下を読んでから、もう一度返って読みます。
①未(いまダ~ず):まだ~ではない、今だに~し(てい)ない。
②将・且(まさニ~ントす):今にも~しようとする、今にも~になろうとする。
③当(まさニ~ベシ):~しなければならない、~するのが当然だ。
④応(まさニ~ベシ):きっと~だろう、~するのが当然だ。
⑤宜(よろシク~ベシ):~するのが良い、~した方が良い。
⑥須(すべかラク~ベシ):必ず(是非とも)~しなければならない(する必要がある)。
⑦猶・由(なホ~ノゴトシ・ガゴトシ):ちょうど~と同じだ、あたかも~のようだ。
⑧盍(なんゾ~ざル):どうして~しないのか(~すればいいのに)。

(2)漢文読解
「音読」=受験で出題される漢文の場合、難しい漢字や字面と意味が大きく食い違う漢字には必ず読みがながふってあり、声に出して読めば必ず意味が通るようになっています。
「教訓話」=中国における漢文の伝統は儒教的な「勧善懲悪」と道教的な「ちょっといい話」ですが、全体的に教育的であり、「教訓話」がきわめて多いのがその特徴です。

【小論文・論作文】
(1)「書くための材料」は「経験」「知識」「考え」の3つのみ
「経験」=最も説得力を持つが、新たに得ることが簡単とは限りません。したがって、「今までの経験を今後の進路にどう活かせると考えるか」「これから新たに経験できることは何か」ということになりますが、「人の経験に学ぶ」ということも可能です。例えば、「私の友人で○○した人がいるが、彼/彼女は・・・と感じたという」などとすれば、「人の経験」も全て使用可能となります。
「知識」「考え」=最も短期間に吸収・習得できるとしたらこれらです。もちろん、受験生はまだ「専門家」ではないので、学者並の知識や政策提言できるほどの方案を持っている必要はありませんが、「専門分野を目指す者」として「最低限の知識」と「基本的な見解」を持っていることは当然とされますので、注意しましょう。この2つが乏しければ、「本当に目指しているのか、心からやりたいと思っているのか」と熱意を疑われても仕方がないのです。

(2)情報収集に関して、「新聞」「ネット」にまさる武器はない
「本」=読書はすべきですが、時々刻々動いている情報をつかむには遅すぎます。「読解力」をつけるには「問題」の方がいいですし、「知識」「見解」を短期間に吸収するなら「新聞」がベストです。
「新聞」=「医療」「福祉」「教育」「青少年問題」「政治改革」「地方自治」など、自分の進む専門分野及び関連する周辺分野に関しては、必ず「スクラップ」することです。直前ならさらにこれに「コメント」を加えていきます。これを1週間続けると別人になり、1ヶ月続けると何もしていない人は追いつけなくなるものです。「問題意識」を持ち始めると、「関連情報」に敏感に反応するようになりますが、さらに新聞では一定期間ごとに特集記事を組み、これまでの経緯や問題点、基本的観点をまとめて提示してくれますので、短期間に「最低限の知識」と「基本的な見解」を吸収することができるのです。そして、記者は必ず「しめくくりの決めゼリフ」に向かって記事を書くものですが、凝縮した内容を持つ「キーワード」を効果的に使った「決めゼリフ」はそのまま「使える文章表現」として真似すると良いでしょう。また、作問者も当然情報源の一つとして新聞を読んで問題作成をしますので、作問時期に新聞を読んでいないと、それだけでも不利なのです。
「ネット」=調べるための必要不可欠ツールです。ネット環境がないことのマイナスは表現しようがありません。

(3)「専門講座」「専門ツール」を使いこなす
「専門講座」(時事)、「専門ツール」(時事テキスト)=それぞれ数年分の新聞記事、『イミダス』『知恵蔵』『現代用語の基礎知識』などのエッセンスですので、それぞれの時事試験に対応するものとしてこれほど効率的なものはありません。個人としても新聞のスクラップなどをすべきですが、何年もさかのぼってできるものではなく、思い立った時点から始める以外にありません。こうした不備を補うためにも、専門予備校が何年もかけて情報を集めて圧縮させた「専門講座」「専門ツール」は貴重な存在であり、利用できるものは全て利用し尽くすべきです。

科目別本格的勉強法:社会編

【世界史】
世界史の比重では、「西洋史:東洋史」は大体「7:3」か「8:2」といったところでしょう。そして、それぞれの「歴史の骨格」を押さえることが重要となりますが、ここでカギとなるのが「歴史観」です。膨大な歴史事象を覚えるにも、記述対策をするにも、核となる「歴史観」があるかないかで大きな差が生まれてきますので、注意しましょう。実際、世界史の最重要ポイントは「近・現代史」にあります。具体的には市民革命・産業革命以降の300~400年に集中することです。観点は「今日の世界・社会に影響を及ぼしていること、直結していることは何か」ということです。これをざっと押さえて、あとは「過去問ラッシュ」で知識の活性化、肉付けをしていくことになります。
例えば、世界大戦や世界恐慌のように、現代社会に直結している(直接的影響を及ぼした)ものほど、歴史的意義が高い(歴史的に重要なテーマとして追求せざるを得ない)と考えられます。そして、現代社会の政治の根幹を成す「民主主義」「議会政治」「憲法」「人権思想」などの諸概念・制度は、イギリス市民革命、アメリカ独立革命、フランス革命などによって確立されていった「近代法」「近代デモクラシー」を淵源とし、古代アテナイの民主政などとは無関係です。また、現代社会の経済も産業革命を生んだ「近代資本主義」を母体としており、経済学も対象としているのはこの「近代資本主義」の分析であって、古代や中世の経済にはほとんど関心を持っていません。

(1)古代史・中世史
 西洋史の中心は「ヨーロッパ」ですが、その古代・中世史の中心は「ローマ」にあります。ローマは先行する東方オリエント文明を吸収・洗練化させたギリシア文明を引き継ぎ、地中海を中心とした最初の世界帝国を実現しました。ヨーロッパの文化的原点はギリシアですが、文明的原点はローマにあると言ってもよく、そこで育まれたローマ法、キリスト教、ラテン語などの普遍性は多大な影響を及ぼし続けています。ローマ帝国は東ローマと西ローマに分裂しましたが、西ローマ帝国を引き継いだのがゲルマン民族の建てたフランク王国で、ここにギリシア・ローマ、キリスト教、ゲルマン民族という3つの要素を柱として持つ「ヨーロッパ」が成立したとされます。フランク王国は東フランク、西フランク、中フランクに分かれますが、これがドイツ、フランス、イタリアのルーツとなっています。やがて、東フランクは神聖ローマ帝国となり、これがナポレオンのライン同盟設立まで続きますが、今日のEU(ヨーロッパ共同体)構想はローマ=カトリック教会の精神をバックボーンに、神聖ローマ帝国の復活を目指したものと見る向きもあります。そして、「パクス・ロマーナ」(ローマの平和)を引き継いだとされるのが「パクス・ブリタニカ」の大英帝国であり、さらにそれに続いたのが「パクス・アメリカーナ」のアメリカで、特にアメリカは「現代のローマ」として位置付けられます。また、東ローマの流れはビザンチン帝国を経てロシアに移り、モスクワはローマ、コンスタンチノープルに次ぐ「第三のローマ」と呼ばれました。まさに欧米主要国は全てローマの後裔と言ってもよく、これを抜きにヨーロッパ史を語ることができないことがよく分かります。

(2)近世史
 ルネサンスにおいて「ギリシア精神の復興」が起こりましたが、ギリシアには「主知主義」「人間主義」「現世主義」などの伝統があり、特に「証明」「幾何学」「集合論」に代表される数学的思考は「近代精神」に多大な影響を及ぼしました。また、宗教改革をもたらした「プロテスタンティズムの倫理」は「宗教の合理化」を行い、さらに「資本主義の精神」を生み出していきました。こうした「ギリシア精神の復活」と「プロテスタンティズムの倫理」が生んだ「合理主義」は「普遍化」と「西欧化」の2つの面を持ちます。
 実に「近代化」とは「伝統主義」に対する「合理主義の勝利」であり、「伝統主義」とは「昨日もそうだったから今日もこうである」という「永遠の昨日」に縛られた状況を指します。そして、「合理主義」とは「理性」を根拠とするものですが、「人間」「肉体」「自然」「現実」に目を向けたルネサンスにおいて推進力となり、次第に自覚化、具体化していったものなのです。つまり、「合理主義」にはヘレニズム的背景とヘブライズム的背景の二重性があり、「普遍化」「世界化」と「西欧化」「キリスト教化」という二重の契機を持つということです。

(3)近代史
 近代史の中心はまさに「近代化」そのものにあります。元々、西洋が東洋に勝った時代はほとんど無く、アレクサンダー大王の東方遠征ぐらいで、中国を中心とする東洋の方が圧倒的な国力を持っていました。イスラームを西洋圏に入れるならば、タラス河畔の戦いでアッバース朝軍が唐軍に勝ったことも挙げられますが、これは局地戦でした。さらに軍事的天才であった「一代の英傑」チムールも明への遠征途上で没しますが、生きていれば勝ったであろうと見られていますが、これはifの話です。そして、あっという間に中東を制覇し、ヨーロッパにも迫ったイスラーム軍も精強なモンゴル軍には勝てず、アッバース朝バグダッドも陥落し、ヨーロッパも心臓部にまで迫られ、ロシアも「タタールのくびき」を強いられたことは有名です。ところが、文明の後進地域であった西洋が「近代化」に成功し、近代科学や近代市民社会を作り出すと共に近代資本主義を成立させ、産業革命を成功させるや、あっという間に世界を植民地化していったわけですから、そのプロセスは驚異的ですらあります。この「近代化」はテーマとして避けることができないものであり、その母体となった「絶対主義」(さらにはその前史である十字軍など)や「ルネッサンス」「宗教改革」、その柱とも言うべき「市民革命」(イギリス清教徒革命・名誉革命、アメリカ独立革命、フランス革命)と「産業革命」などは、歴史的意義からしてまず落とせないと言ってもいいでしょう。
 例えば、「近代的学問」が西欧の大学を舞台として発達し、クラシック音楽やルネサンス美術に代表される芸術も急激に洗練されていき、世界化していきました。「近代科学」も目に見えない世界も解明し、原子から莫大なエネルギーを引き出す一方、技術の発達から鉄の船を浮かべ、空を飛ぶことすら可能にして、生活を劇的に変えただけでなく、ものの見方・考え方まで大きく変えていった。また、それまで人類が自然から恒常的に引き出せる「力」がせいぜい「1馬力」であったのに対し、「蒸気機関」の発明や電気エネルギーの活用、「内燃機関」などの発明がなされていって、「生産力」「工業力」が飛躍的に増大していったのです。実に「普遍性」を持つことが「世界性」「世界化」の要素となるわけです。

(4)現代史
 現代史の特徴は歴史がまさに「世界」史になったところにあります。「第一次世界大戦」と「国際連盟」、「世界恐慌」と「全体主義」、「第二次世界大戦」と「国際連合」、「冷戦」といったテーマは全世界的なものであり、それまでの歴史に一切見られなかったものです。ただ、戦後政治はそのまま「政治・経済」の分野となるので、「世界史」としては本格的に扱いづらい面があります。

(4)東洋史
 東洋史は「中国」が中心ですが、そのカギは「統一王朝」の時代です。「秦・漢」「隋・唐」「宋・元」「明・清」「中華民国・中華人民共和国」がそれですが、具体的には「開祖」「首都」「法制」「文化」「戦争・外交」「農民反乱」がその内容となります。「持続の帝国」と呼ばれる中国において、統一王朝時代は「節(ふし)」に当たる部分であり、これが歴史の骨格となるわけです。

【日本史】
 日本史の最重要ポイントは「近・現代史」にあります。具体的には幕末開国から明治維新以降の200年弱に集中することです。特に「世界史の動きの中で日本史に多大な影響を与えた事件」(例えば、アヘン戦争などは幕末の志士達の脳裏に焼き付いており、間違いなく倒幕・維新の背景にあったと言えます)「今の日本社会に影響を及ぼしていること、直結していること」に注目することです。これをざっと押さえて、あとは「過去問ラッシュ」で知識の活性化、肉付けをしていくことになります。

(1)古代史
 古代史における理解のカギは「律令体制の構築と崩壊のプロセス」です。聖徳太子の十七条憲法が律令体制の「理念」、大化改新が律令体制の「原点」、大宝律令が律令体制の「完成」と位置付けられます(実はこれらは実証的には問題をはらんでいるので、こうした位置付けに疑問を感じるところから「歴史学」が始まると言ってもいいでしょう)。そして、三世一身法・墾田永年私財法から「律令体制の崩壊」が始まり、令外官(りょうげのかん)と荘園の発生によってそれは決定的になっていきます。藤原氏が権力を掌握していったのも、血縁的には「外戚」、政治的には「摂政・関白」、経済的には「荘園」を押さえたからであり、逆に権力を失っていくプロセスはこれらが1つ1つ崩れていくプロセスとしてとらえることができます。すなわち、藤原氏を外戚として持たない天皇が現れて荘園整理令を出し、院政を敷いて上皇が権力を握り、新たに台頭してきた武士が実権を握っていくということです。実に荘園が完全に無くなるのは秀吉の太閤検地の時であり、名実共に律令が無くなるのは何と明治維新の時ですから、日本社会の特質を律令体制分析を通して明らかにすることができるくらいです。

(2)中世史
 中世・近世史は「武家政治システムの確立と崩壊のプロセス」です。具体的には幕府及び法制が中心となります。そして、テーマ史として、「仏教・儒教・芸術を中心とした文化史」「戦争も含めた外交史」「貨幣と農業技術を中心とした産業発展史」の理解が側面的に必要になってきます。ちなみに、かな文字や和歌など日本文化の原点は平安王朝文化、特に国風文化の成立にあると言ってもいいのですが、茶道・華道や能といった日本を代表する伝統文化が確立するのは室町時代のことです。そして、戦国時代を経て、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三代によって、江戸幕府という長期安定政権が誕生します。

(3)近世史
 江戸時代のポイントは初期の「鎖国のプロセス」と末期の「開国のプロセス」、及び「三大改革」とその前後・間にはさまる「元禄文化」「正徳の治」「田沼意次の政治」「化政文化」などとなります。「三大改革」などは政財政改革という点からすればむしろ失敗と言えるのですが、「頻度」という点で落とすことができないでしょう。
 ところで、ちょんまげを結って歩いていた極東の島国が、「ヨーロッパ文明」を積極的に導入して「近代化」を成し遂げるや、「日清戦争」でアジアの宗主国を破って「アジアの最強国」となり、「日露戦争」で列強の一角を破って「列強の一員」となってしまいました。第一次世界大戦後の「国際連盟」では常任理事国となり、第二次世界大戦後には敗戦にもかかわらず、ヨーロッパ諸国を追い抜いて、アメリカに次ぐ「第二の経済大国」にまでなってしまったのです。こうした日本の「明治維新」にならったアジア、イスラーム諸国は多いものの、そのほとんどがなかなかうまくいきませんでした。それは「近代化」を推進すればするほど、「伝統主義との対決」や「西欧化」の問題にぶつかり、「キリスト教の論理」に自覚的に直面することとなっていったからなのです。
 しかも、日本の「明治維新」の背景には260年に及ぶ「パックス・トクガワナ」(徳川の平和)があり、ここで技術的蓄積や初等教育の普及、洋学の吸収がなされていったことまで学び取ろうとした国々はなかったのです。あるいは日本は「最も成功した社会主義社会」とも言われ、こうした「日本の特殊性」の解明は世界が期待する「日本史のテーマ」でもあるわけです。つまり、日本史最大のテーマも「近代化」であり、「明治維新」をめぐる前後数百年の分析だと言えるです。

(3)近代史・現代史
 近代・現代史はまさに日本史における「近代化のプロセス」に他なりません。ここで政治面における「自由民権運動」と「大日本帝国憲法」、外交面における「不平等条約の解消」、経済面における「資本主義・産業革命の達成」がテーマとなってくるわけですが、とりわけ後二者に関して、「日清戦争」と「日露戦争」が大きなヤマ場となりました。やはり、この2つの戦争の意義は見落とすことができないところです。さらに日本の国家戦略が琉球→台湾→朝鮮半島→満州→中国大陸というラインに沿っていることに気づくと、軍事・外交上のポイントが浮かび上がってきます。そして、世界的な流れの中では1920年代以降の「恐慌」と「軍縮」が、1930年代以降の「全体主義化」「軍国主義化」の背景となっています。戦後においては「政治」と「経済」という二極構造で社会分析をする必要がありますが、多分に政治・経済という科目に重なってくるところです。

【地理】
 「系統地理」としては「地図」「地形」「気候」「土壌」などの「自然地理」があり、さらに「産業」(農牧林業、水産業、鉱工業)及び「日本の貿易関係」(輸出入の相手国と品目)などの「経済地理」、「交通・通信」「都市問題」「人口問題」などの「社会地理」があります。そして、主要国の地理的条件と産業的特徴といった「地誌」がもう1つの柱となります。これらが「骨格」となりますが、キーとなるのは「日本との関係の深さ、重要性」(例えば、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、中国、東南アジアなど)と見てよいでしょう。ちなみに「自然地理」は「地学」の中の「地球物理学」の部分と重なり、「経済地理」「地誌」の部分は「政治・経済」と重なる点が多くありますので、クロス・オーバーで知識と理解を深めていくことが可能です。

(1)系統地理
 「自然地理」では「地図の読み方」「ハイサーグラフ」(気温と降水量を1つのグラフで表示したもの)などを押さえ、「経済地理」では「米・小麦・大豆・茶の生産国」「アメリカ・ヨーロッパ・中国・オーストラリアの農業分布」「産油国」「発電量の内訳」(特にアメリカ・日本・フランス・ノルウェー・カナダ・ブラジル・中国など)、「日本の主要輸出入相手国とその主要品目」などは頻出分野なので、押さえておかなければいけません。あとは「過去問ラッシュ」で仕上げをかけることです。

(2)地誌
 「地域統合」の持つ歴史的な意義からして、「EU」「ASEAN」の2地域は落とせないところです。「EU」は「現代におけるローマの復活」ですが、「市場統合」→「通貨統合」→「政治統合」の3段階のプロセスで進行しており、第二段階から第三段階まで順調に移行していると思いきや、第二段階で思わぬつまずきを見せ、これをどう克服していくかは「アジア共同体」の成立の可能性からしても注目されるところでしょう。今後は「ロシアの取り込み」「トルコから中東イスラーム地域への働きかけ」「アフリカへの進出」などが予測されます。一方、「ASEAN」は基本的に「キリスト教共同体」である「EU」と違い、「多様な宗主国」「多様な宗教文化」が特徴であり、その統合はより大きな可能性を示唆しています。
 さらに「BRICs」(ブラジル、ロシア、インド、中国)も新興経済勢力として注目せざるを得ませんし、まだ用語として定着していないながらも、それに続く「VISTA」(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)諸国も要注意かもしれません。

【倫理】
 倫理は「社会論」「環境問題」「人口問題」「青年期」「人間観」「風土論」「文化論」などの現代社会論と「宗教論」「思想史」などの思想分野からなります。

(1)現代社会
 そのまま英語の長文や現代文の評論でも取り上げられるテーマばかりなので、知識として増やしたいところです。例えば、「共生」という概念でくくれば、「高齢者と若者の共生」が「高齢社会」のテーマとなり、「健常者と障害者の共生」が「バリアフリー社会」「ユニバーサル社会」のテーマとなり、「男性と女性の共生」が「男女共同参画型社会」のテーマとなり、「人間と自然の共生」が「循環調和型社会」のテーマとなるように、如何に「概念」を理解し、駆使できるようになるかが全体像をつかむコツです。これがないと、単なる「膨大な知識の山」に過ぎず、「生きた知識のネットワーク」にならないわけです。

(2)思想分野
 ポイント・チェックをして「過去問」をやるだけです。日本思想の和辻哲郎、現代思想のフランクフルト学派、ロールズの正義論、ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア=センなどは要注意です。生命倫理、環境倫理なども頻出分野です。 

【政治・経済】
これらはいわば「政治」と「経済」という観点から社会の骨格・根幹を理解しようとするもので、「政治的動物」「社会的存在」とされる「人間」の「人間たる所以」の分析ですから、これぐらいの基本的理解はしておきたいところです。実際、「政治(法律)」と「経済」は「社会科学」の中枢を成す分野であり、「社会科学」はあらゆる試験で相当な比重をもって出題されるものなので、これを強味に変えると圧倒的に有利な立場に立ちます。理解を深めてくれるキーワードは「近代法」「近代民主主義」「近代資本主義」であり、これらを三位一体としてとらえ、「近代社会」分析のツールにすることです。さらに「近代哲学」「近代科学」の根幹を理解できれば完璧と言えるでしょう。これらの根底にある基礎概念の1つが「合理主義」です。

(1)政治
 政治は「日本国憲法」と「国際政治」に大きく分かれ、前者では「基本的人権」「三権」「地方自治」「選挙制度」が基本となり、後者では「国連」に代表される国際機構がカギとなります。政治分野においては「衆議院の優越」「直接請求に必要な署名数と請求先」「ドント方式の計算法」だけは理屈を理解する必要がありますが、後は丸暗記です。仕上げはいずれも「過去問」です。

(2)経済
 経済はいわゆる「経済原論」の内容(ミクロ経済学、マクロ経済学)と「日本経済」「国際経済」からなり、前者は「市場法則」「現代企業の特徴」「国民所得の概念」「財政・金融政策」などが中心で、後者は「景気」「社会保障」「経済共同体」などが中心となります。経済分野においては「価格の自動調節機能」「国民所得の定義」「金融政策におけるマネーサプライの観点」だけは理屈を理解する必要がありますが、後は丸暗記です。仕上げはいずれも「過去問」です。

科目別本格的勉強法:理科編

【物理】
 「力学」「熱力学」「波動」「電磁気」「原子物理」の5つの分野からなります。中学物理では「原子物理」を除く4分野について学び、高校物理では中学校で学んだ内容を一通りおさらいしつつ、範囲と内容が拡大・発展・深化していく所に特徴があります。ちなみに「力学」と「電磁気」が物理学の基本であるのに対し、「熱力学」「波動」「原子物理」は応用的な要素が強く、苦手になりがちです。

(1)中学物理
 「波動」では特に「光」と「音」にスポットを当て、「光の反射・屈折」「凸レンズと像」「音の三要素(高さ、強さ、音色)」を学びます。
 「力学」では「力の働き(物体を変形させる、物体を支える、物体の運動状態を変える)」「力の三要素(力の大きさ、力の向き、力の作用点)」「力の合成と分解」「力のつり合い」といった基本事項から、「質量と重さ」「重力」「垂直抗力」「摩擦力(静止摩擦力、動摩擦力)」「潮力」「弾性力」「圧力(水圧、大気圧)」「浮力」などの様々な力、及びそれに関連して「作用・反作用の法則」「フックの法則」「パスカルの原理」「アルキメデスの原理」などの法則・原理を押さえていきます。そして、物体の運動と力との関係から、「等速直線運動」「慣性の法則」「等加速度直線運動」「運動の法則」「運動方程式」などを学び、さらに「仕事とエネルギー」という観点から「仕事の原理」「仕事率」「運動エネルギー」「位置エネルギー」「力学的エネルギー」「力学的エネルギー保存の法則」などの基礎概念を学びます。  「熱力学」は「仕事とエネルギー」の延長にあり、「熱と温度」「熱平衡」「熱量」「ジュールの仕事当量」「熱容量」「比熱」「熱量保存の法則」などの基礎概念を学んでいきます。
 「電磁気」では電気と磁気の性質を解明し、電気では「電流」「回路(直列回路、並列回路)」「電気抵抗」「オームの法則」「ジュールの法則」「(消費)電力」「電力量」などの基礎概念・法則を学び、磁気では「磁極」「磁力」「磁界(磁場)」「磁力線」「右ねじの法則」「フレミングの左手の法則」「モーターの原理」「電磁誘導」「発電機の原理」「直流と交流」などの基礎概念・法則を学びます。

(2)力学
 物理学はそもそも「力学」を基礎として組み立てられており、「力学」とは「物体がいつ、どこにあるかを予測する」「力とは何かを知る」ことを目的としています。したがって、ここで「等加速度運動の基本公式(位置の公式、速度の公式、位置と速度の関係)」「フックの法則」「力のモーメントの公式」「ニュートンの運動の3法則(慣性の法則、運動の法則、作用・反作用の法則)」「運動方程式」「ケプラーの法則(第1法則、第2法則、第3法則)」などを押さえ、さらに「重力」「垂直抗力」「張力」「摩擦力」「圧力」「浮力」「弾性力」「向心力」「慣性力」「遠心力」「万有引力」などの諸力の定義を確認していくことになります。そして、「仕事とエネルギー」「仕事の原理」「仕事率」「運動エネルギー」「位置エネルギー」「弾性エネルギー」「力学的エネルギー保存の法則」「運動量と力積」「運動量保存の法則」「反発係数」「等速円運動」「単振動」「単振り子」などへと、扱う対象と概念が発展・拡大していくわけです。

(3)熱力学
 「熱力学」は「気体」を主に対象とし、熱と温度を力学的に説明するものです。「気体」が主役となるのは、産業革命以来、「理想のエンジン(熱機関)」を追求する中で「熱力学」が発達してきたという経緯によります。そこで、「熱量」「熱容量」「比熱」「熱平衡」「定積モル比熱」「定圧モル比熱」などの基礎概念を押さえ、「ボイル・シャルルの法則」「理想気体の状態方程式」「熱力学第1法則」「熱力学第2法則」「マイヤーの関係式」などを確認していきます。

(4)波動
  ここで「三角関数」を駆使することになるので、数学Ⅱで「三角関数」を学んでいることが前提になります。「周期」「振動数」「振幅」「波長」などを基本として、「波の重ね合わせ」「波の干渉」「波の反射(固定端反射、自由端反射)」「ホイエンスの原理」「反射の法則」「屈折の法則」「波の回折」へと発展していきます。さらに音波の性質として、「音の三要素」「音の速さ」「音波の反射・屈折・回折・干渉」「うなり」「ドップラー効果」「固有振動」「共振と共鳴」などについて学び、光波の性質として、「物体の色」「光の速さ」「光の反射・屈折」「光の散乱・分散」「凸レンズと凹レンズ」「光の回折・干渉」などを学んでいきます。

(5)電磁気
 「電気」はきわめて身近な、生活に欠かせない存在であり、「磁気」と兄弟関係にあるので、セットで学んでいくことになります。まず、「電気」の基本として、「電流と電圧」「電気の仕事(消費電力)」「電気抵抗」「オームの法則」「電熱器の原理」などについて学び、さらに「電荷保存の法則」「クーロンの法則」「静電誘導」「電界」「電気力線」「ガウスの法則」「電位」「誘電分極」「コンデンサー」「電気容量」「誘電率」「直流回路」「キルヒホッフの法則」「ホイートストンブリッジ」「非線形抵抗」などへと、扱う対象と概念が発展・拡大していきます。また、「磁気」の基本として、「アンペールの右ねじの法則」「フレミングの左手の法則」「誘導電流」「モーターの原理」「発電機の原理」「変圧器の原理」などについて学び、さらに「磁気量」「磁界」「磁力線」「磁束密度」「透磁率」「ローレンツ力」「サイクロトロン運動」「ホール効果」「レンツの法則」「電磁誘導の法則」「渦電流」「自己誘導と相互誘導」「交流と交流回路」「共振回路」「振動回路」「電磁波の発生・伝播・反射・屈折・干渉」などへと、扱う対象と概念が発展・拡大していきます。

(6)原子物理
 「20世紀は物理学の世紀」と言われていましたが、それはこの「原子物理」分野の驚異的な進展によります。ここで「量子論」「光の粒子性と光電効果」「光量子」「仕事関数」「X線の波動性とブラッグ反射」「X線の粒子性とコンプトン効果」「物質波と電子線回折」「原子模型」「水素原子のスペクトル」「波動関数」「不確定性原理」「原子核の構造」「核力」「質量とエネルギーの等価性」「放射線と原子核の崩壊」「放射能と放射線の単位」「原子核反応」「核分裂と核融合」「素粒子」「4つの基本的な力」「宇宙論」といったテーマを学んでいきますが、これが大学での物理学に直結していきます。

【化学】
 「化学」は大きく「理論化学」「無機化学」「有機化学」の3つの分野からなります。基本概念としては「分子・原子の構造」「物質量」「化学反応式」「熱化学方程式」「酸と塩基」「酸化還元反応」などを最低限理解する必要があり、後は「個々の元素の単体及び化合物の性質」「有機化合物の特徴と構造」をメジャーなものから押さえていくことになります。特に炭素を中心とする有機化合物は、構造が知られているものだけで3,000万種以上あるとされ、炭素以外の100種ほどの元素の化合物をはるかにしのぐ多様性を持っており(人間も「炭素型生命体」です)、19世紀後半以降、隆盛となった化学工業も有機化学の発達がもたらしたものです。化学肥料、農薬、化学療法、化学繊維、プラスチックなど、「現代文明の豊かさを支えているものはまさに化学技術である」と言われており、物質の性質や変化の仕組みを解明してさらなる応用の道を開こうとするのが「化学」なる学問というわけです。元々、化学の母体は「錬金術」でしたが、現代化学の成果を見ると、これはまさに「現代の錬金術」と言ってもいいかもしれません。ちなみに日本は「化学」研究大国の1つであり、ここからまだまだノーベル賞が出て来るだろうと予想されています。
 化学の本質はまさに「応用」にあるので、現実的生活・利用に結び付けて理解するのが近道です。また、化学は物理とも生物とも「相性」がいいため、総合的に学ぶと理解が深まりやすいメリットがあります。

(1)中学化学
 「実験器具の使い方」から始まって、「物質の三態」「代表的な気体(空気、酸素、二酸化炭素、水素、アンモニア二酸化硫黄、硫化水素、塩素、塩化水素、二酸化窒素、一酸化窒素など)とその性質」「水溶液の性質(溶媒、溶質、濃度など)」「酸とアルカリ」「指示薬の変色」「中和と塩」「物質の分解」「元素・原子・分子」「化合物と単体」「同素体」「原子の構造」「イオン」「化合」「化学反応式」「中和反応と塩」「質量保存の法則」「定比例の法則」「倍数比例の法則」「酸化と還元」「化学変化とエネルギー」「イオン化傾向」「電池」「原子の電子配置と周期表」「イオン結合」「金属と反応」といった基礎事項を学んでいきます。

(2)理論化学
 「混合物の分離」「同素体」「炎色反応」「原子の電子配置と価電子」「イオン化エネルギーと電子親和力」「イオン結合・共有結合・金属結合」「元素の周期表と元素の性質」「典型元素・遷移元素」「アルカリ金属・アルカリ土類金属・ハロゲン・希ガス元素」「金属元素・非金属元素」といった基礎概念を学んでいきますが、中でも「原子量・分子量・式量」という「物質量」の概念を理解する上で欠かせない「モル(mol)」の概念だけは絶対にガッチリ押さえなければなりません。ここから「化学反応式と量的関係」が出てきて、「熱化学方程式」「ヘスの法則」「酸と塩基」「電離度」「水素イオン濃度とpH」「中和反応と塩」「中和滴定」「酸化還元反応」「酸化剤と還元剤」「金属のイオン化傾向」「電池の原理」「電気分解」といった内容を学んでいきますが、全て「モル(mol)」の概念が基本となっていることが中学化学との大きな違いです。さらに「化学結合(イオン結合・共有結合・配位結合・金属結合)」「分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)」「物質の状態変化」「気体の圧力」「気液平衡と蒸気圧」「ボイル・シャルルの法則」「気体の状態方程式」「ドルトンの分圧の法則」「理想気体と実在気体」「溶解(溶解度・濃度)」「浸透圧とファントホッフの法則」「コロイド」「化学反応の速さ」「活性化エネルギー」「化学平衡の法則(質量作用の法則)」「平衡移動の原理(ルシャトリエの原理)」「電離平衡」「塩の加水分解」「緩衝作用」「溶解平衡と共通イオン効果」などへと、扱う対象と概念が発展・拡大していき、大学化学へとつながっていきます。

(3)無機化学
 元素は「典型元素」と「遷移元素」に分けられ、また「金属元素」と「非金属元素」に分けられます。「典型元素」では原子番号の増加と共に価電子の増加と共に価電子数が周期的に変化するので、周期表で横に並んだ元素の性質は規則的に変化し、また縦に並んだ元素(「同族元素」)は価電子数が等しいためによく似た性質を示します。「非金属元素」は全て「典型元素」です。また、「遷移元素は」原子番号が変わっても価電子数があまり変化せず、隣り合う元素の性質も似ているものが多くなります。こういった周期表に基づく元素の性質の説明が「無機化学」の主眼となります。
 具体的には「水素(1族)と希ガス(18族)」「ハロゲン(17族)とその化合物」「酸素・硫黄(16族)とその化合物」「窒素・リン(15族)とその化合物」「炭素・ケイ素(14族)とその化合物」「アルカリ金属(1族)とその化合物」「2族元素(アルカリ土類金属)とその化合物」「1、2族意外の典型元素(アルミニウム、亜鉛、スズ、鉛など)とその化合物」「遷移元素(3~11族、全て金属元素。鉄、銅、銀、クロム、マンガンなど)とその化合物」「水溶液中のイオン(塩化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、金属イオンなど)の反応」などが対象となります。

(4)有機化学
 構成元素として炭素を含む化合物を「有機化合物」として総称され(一酸化炭素や二酸化炭素、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、シアン化カリウムのようなシアン化物は炭素を含みますが、「無機化合物」として扱われます)、構成元素の種類は少ないにもかかわらず、有機化合物はきわめて多様で、食品・医療品・医薬品の大部分も有機化合物でできています。
 ここで「炭化水素」(炭素と水素だけからできている有機化合物)を「飽和炭化水素」(炭素原子間の全ての結合が単結合)と「不飽和炭化水素」(炭素原子間に二重結合や三重結合を含むもの)、「鎖式炭化水素」(炭素原子が鎖状に結合。脂肪族炭化水素)と「環式炭化水素」(環状につながっている部分を含む)とに分け、「鎖式炭化水素」のうち飽和炭化水素を「アルカン」、二重結合を1つ含むものを「アルケン」、三重結合を1つ含むものを「アルキン」と呼びます。また、環式炭化水素のうち、飽和炭化水素を「シクロアルカン」、二重結合を1つ含むものを「シクロアルケン」と言い、これをまとめて「脂環式炭化水素」と言います。そして、「ベンゼン環」を含む炭化水素は特有の性質を示すので、「芳香族炭化水素」として別に分類されています。さらに「炭化水素基」(炭化水素からH原子が取れた原子団)にくっついた「置換基」として「メチル基」「アルキル基」などが挙げられますが、その中には「ヒドロキシ基」「エーテル結合」「カルボニル基」「カルボキシ基」「エステル結合」「ニトロ基」「アミノ基」「スルホ基」などのように、それらを含む有機化合物を特徴づける「官能基」と呼ばれるものがあります。こうして見ると、有機化学の特徴は如何に物質を「分類」し、その「構造」と「性質」を系統的に説明していくかという点にあると言ってもよさそうです。
 そして、「異性体」「構造式の決定」「付加反応」「重合」「高分子化合物」「アルコール」「アルデヒドとケトン」「カルボン酸」「エステルと油脂」「フェノール類」「芳香族アルデヒドとケトン」「芳香族カルボン酸」「芳香族ニトロ化合物」「芳香族アミン」などの個々の概念を押さえた上で、プラスチックの化学、食品の化学、衣料の化学、生命の化学、薬品の化学などへと応用されていきます。

【生物】
 「細胞の構造と働き」「生殖と発生の仕組み」「遺伝の法則と仕組み」「刺激の受容と行動」「恒常性維持のシステム」「植物と環境要因」などに関してポイントを押さえていくことになりますが、最大のポイントは「実験考察」でしょう。生物学的な発見の基となった歴史的実験について理解しておくのみならず、初見の実験に関しても「条件の制御」「実験目的」「検証結果」などについて見抜いていく必要があります。

(1)中学生物
 顕微鏡などの「観察器具の使い方」から始まって、「植物の構造・機能・分類」では「蒸散」「光合成と呼吸の仕組み」などを、「動物の構造・機能・分類」では「感覚器官と運動器官」「神経系」「消化と吸収」「呼吸」「血液の循環」「排出」などを特に重点的に押さえていく必要があります。 さらに「細胞の構造と機能」「生殖と遺伝」「食物連鎖と生物濃縮」「生態系と環境問題」といった基礎事項を学んでいきます。

(2)細胞
 「細胞の構造・機能」では「動物細胞と植物細胞の違い」「各細胞小器官の機能」「原核生物と真核生物」「酵素の働き」「細胞膜と浸透圧」、「細胞の増殖」では「細胞分裂」「染色体」、「細胞と生物の構造」では「単細胞生物と多細胞生物」「動物の構造・機能」「植物の構造・機能」などの基礎事項について押さえていきます。ところで、旧課程から現行課程に移行する時、この分野の難しい内容がほぼ生物Ⅱに移されたのですが、今回の新課程で戻ってきたり、さらに付加されているので、要注意の分野と言えるでしょう。具体的には「呼吸」「光合成」「窒素同化」などの「代謝」のメカニズムと、最新のバイオテクノロジーの内容をふまえた「遺伝情報の発現」です。

(2)生殖と発生
 「生殖の方法」では「無性生殖と有性生殖」「減数分裂の仕組み」、「動物の生殖と発生」では「配偶子の形成」「受精」「卵割」「胞胚の形成」といった各段階を押さえ、「モザイク卵と調節卵」「局所生体染色法と原基分布図(予定運命図)」「形成体と誘導」などの基礎概念を学んでいきます。「植物の生殖と発生」では「被子植物の生殖細胞の形成と重複受精」を重点的に扱い、「植物の器官の分化」まで押さえていきます。「核相とDNA量の変化」「外胚葉・中胚葉・内胚葉の形成と移動」「基礎概念が確立されるに至った歴史的実験」などはとまどいがちなので、よくよく理解してかかる必要があります。

(3)遺伝
 生物における最重要分野であり、この分野での質問が出たら、その人の生物の勉強は仕上がりに近づきつつあると言ってもよいでしょう。
 「遺伝の法則」では「メンデルの法則」(優性の法則、分離の法則、独立の法則)が出発点にあり、ここで「自家受精」「交配」「交雑」「純系」「対立形質」「遺伝子型と表現型」「一遺伝子雑種」「優勢形質と劣性形質」「対立遺伝子」「ホモ接合体とヘテロ接合体」「検定交雑」「二遺伝子雑種」といった基礎概念を押さえていきます。これによって「不完全優性」「複対立遺伝子」「致死遺伝子」「補足遺伝子」「抑制遺伝子」「条件遺伝子」といった所まで説明が可能になります。特に重要なのが「遺伝子型と表現型」の認識で、交雑の結果を表に書いて、その意味する所を見抜けるかどうかがカギとなります。
 「遺伝子と染色体」では「遺伝子の連鎖と組換え」「組換え価」「三点交雑」「染色体地図」「性染色体と伴性遺伝」などの基礎概念を押さえていきます。ここまで来ると、「遺伝子」の考え方では説明できず、「染色体」という考え方が必要になってくるわけです。
 「遺伝子の本体」では「DNA(デオキシリボ核酸)の発見」「形質転換」「DNAの構造」といった重要概念を学んでいきます。こうした重要発見はいずれも実験によるものなので、歴史的実験の意味を理解することが欠かせません。そして、さらに「DNAの複製」「RNAへの転写」「RNAの加工」「遺伝情報の翻訳」などへと発展していきます。

(4)動物の環境応答
 「刺激の受容と応答」では「受容器(感覚器)と効果器(作動体)」「神経系」「適刺激」「興奮」「閾値」といった基礎概念を学びますが、特に重要なのが「目」と「耳」という「光を受容する仕組み」「音を受容する仕組み」の理解です。「情報の伝達」では「神経細胞の構造」「静止電位と活動電位」「全か無の法則」「興奮の伝導」「神経伝達物質」「中枢神経系」「末梢神経系」「反射」「筋肉の構造」「筋収縮」といった基礎概念を学んでいきます。  「動物の行動」では「生得的な行動」「習得された行動」「刷込み」「慣れ」「試行錯誤による学習」「条件づけ」といった基礎概念を学んでいきます。
 また、「内部環境の調節」では「恒常性(ホメオスタシス)」「体液循環」「血液の組成」「免役」「腎臓の構造・機能」「水星動物の浸透圧調節」「自律神経系による調節」「ホルモンによる調節」といった重要概念を学んでいきます。

(5)植物の環境応答
 「水の吸収と蒸散」「光合成と環境要因」「陽生植物と陰生植物」「発芽の調節」「屈性と傾性」「植物ホルモン」「頂芽優性」「花芽形成と日長」「果実の成熟」「落葉」などの基礎概念を押さえていきます。特に「植物ホルモン」の実験や「花芽形成」の実験は要注意です。

(6)生態系
 ここでは「生命の誕生と初期の生物界の変遷」「細胞の起源」「生物の出現と地球環境の変化」「真核生物の誕生と共生説」「地質時代と生物変遷」「植物の変遷」「動物の変遷」「人類の変遷」「生物の分類と系統」「個体群の構造と維持」「生物群集と生態系」「生態系の遷移と平衡」「生物多様性の保全」といった発展的内容を学んでいきます。

(7)生物から生物学へ
 生物学の源流は「博物学」と「生命論」にあるとされます。前者は「進化論」を生み出し、後者は医学の土台たる「解剖学」「生理学」にもつながっていくものですが、この2つが融合して近代生物学が誕生したというわけです。こうした経緯をふまえると、生物学の本質、特徴が浮かび上がってくると言えます。
例えば、生命史的な観点で言えば、「生命の誕生」と「人類の誕生」という2大エポックの解明こそが生物学最大のロマンと言えるかもしれません。
 生物学史的に言えば、第2次世界大戦中に物理学と化学が高度に発達し、それまで未開の分野といわれていた生物学に、戦後、多くの物理学者が取り組むようになり、20世紀後半において「分子生物学」という驚くべき分野が開拓されていきました。実際、「20世紀前半の量子物理学の時代、後半は分子生物学の時代である」と言われており、さらに21世紀は「量子生物学」の時代であるとも見られています。これは「量子物理学」を化学の分野に適応して成立した「量子化学」と、メンデル以来の「遺伝学」を飛躍的に発展させたワトソン、クリック(彼らはDNAが二重らせん構造であることを突き止め、ノーベル医学・生理学賞を受賞しました。この二重らせん構造理論は分子生物学における「セントラル・ドグマ」〔中心教義〕と呼ばれます)に始まる「分子生物学」が融合する所に成立するものです。
 この「分子生物学」の爆風はすさまじいものがあり、ダーウィニズムからネオ・ダーウィニズム(総合進化説)に至っていた「進化論」にも影響を与え、集団遺伝学と分子生物学をドッキングさせた独創的理論である「中立進化説」(国立遺伝学研究所の木村資生によって提唱されました)はダーウィン理論を根底から覆すような成果を生み出しています。あるいは「母系遺伝であるミトコンドリアDNA」に着目したアラン・ウイルソン、レベッカ・キャン、マーク・ストーンキングらは、現生人類のルーツは20万年前にアフリカにいた1人の女性(「ミトコンドリア・イブ」と名付けられました)に行き着くという論文(「エデンの園仮説」「イブ理論」と呼ばれます)を発表して、世界中をアッと言わせました。これも分子生物学の応用です。最近では「ヒトゲノム解読」が記憶に新しく、ここから「バイオ・インフォマティクス」(生命情報工学)「バイオ・エレクトロニクス」(生命電子工学)が誕生し、「比較ゲノム学」「ゲノム疫学」「ゲノム創薬」「ゲノム薬理学」といった「ゲノム・サイエンス」が次々と生まれてきました。
 こうして見ると、生物学を学ぶ上で、「生命史」(遺伝子レベルでとらえる場合、「バイオ・ヒストリー」と呼ばれます)と「生物学史」をふまえ、「分子生物学」の成果に着目すると、その理解が格段に深まると言ってもいいでしょう。

【地学】
 地学は大きく分けて「地球物理学」(地球科学)と「宇宙物理学」(天文学)の2分野からなり、元々「物理学」の一部であったことが分かります。具体的には、「太陽系の天体」「地球の構造」「火山と地震」「地層と地質」「大気と海洋の構造」「地球と惑星の運動」「太陽の構造と活動」「恒星の性質と進化」「銀河系と宇宙」などに関してポイントを押さえていきます。地学は覚える量が少なくて済むので、コストパフォーマンスのいい穴場(投入した努力の割に得点で報われやすい)とされますが、一部に計算が必須だったり、理解が難しい分野があったりするので、決してナメてかかってはいけません。

(1)中学地学
 「大地の変化」として、「地震」「火山」「地層」の3分野を押さえ、「天気とその変化」では「天気図と気象」「気圧と風」「水蒸気と雲」「気団と前線」の4つを押さえていきます。「地球と宇宙」では「地球」「太陽」「月」「太陽系の天体」を押さえた上で、「天体の位置とその運動」を確認し、さらに「太陽系」を超えて、「恒星」「銀河系」「宇宙の広がり」まで目を向けていきます。

(2)地球物理学
 「地球の概観」では「惑星の内部構造」から「地球型惑星」と「木星型惑星」に分類し、「地球の誕生と特徴」「地球の形状」「地磁気」などについて確認していきます。
 「地球の内部構造」では「地震波」(P波、S波、初期微動継続時間)などの研究から、「上部地殻」(花こう岩質)、「下部地殻」(玄武岩質)、「モホロビチッチ不連続面」(モホ不連続面)、「上部マントル」(かんらん岩質)、「下部マントル」(結晶構造)、「グーテンベルク不連続面」、「外核」(液体)、「レーマン面」、「内核」(固体)といった層構造が明らかになっており、「アイソスタシー」(地殻の均衡)といった考え方も出てきました。
 「地球を構成する岩石」では「火山岩と深成岩」「等粒状組織と斑状組織」「色指数」「マグマの結晶分化作用」などを押さえて、「かんらん石」「輝石」「角閃石」「黒雲母」といった「苦鉄質鉱物」や「ケイ長質鉱物」などの組成から、「苦鉄質岩」である「玄武岩」(火山岩)や「斑れい岩」(深成岩)、「中間質岩」である「安山岩」(火山岩)と「閃緑岩」(深成岩)、「ケイ長質岩」である「流紋岩」(火山岩)と「花こう岩」(深成岩)などの「同定」(生物や鉱物の種類を判定すること)ができるようにならなければなりません。さらに岩石はマグマの貫入や造山運動などに伴う「変成作用」によって、「接触変成岩」「広域変成岩」といった「変成岩」を生じる場合があります。
 「地球の活動」では「プレートテクニクス」に関して、「プレート」「アセノスフェアとリソスフェア」「中央海嶺」「海溝」「トランスフォーム断層」「トラフ」といった基礎概念を押さえ、「火山活動」では「火山前線」(火山フロント)といった基礎概念と共に、「溶岩台地」「楯状火山」「成層火山」「溶岩ドーム」「火山岩塔」といった火山の形の分類と具体例を覚えていく必要があります。そして、「地震活動」では「震度とマグニチュード」「本震と余震」「深発地震」「液状化現象」といった基礎概念を押さえていきますが、時事的にも要注意の分野でしょう。
 「地層の形成」では、「浸食作用」による「V字谷」「海食崖」「海岸段丘」、「堆積作用」による「扇状地」「三日月湖」「三角州」、「カルスト地形」である「鍾乳洞」、「氷河地形」である「U字谷」「カール」(圏谷)、生物が作る海岸地形として「さんご礁」「マングローブ海岸」などを押さえ、さらに地層の形成・変動に関して、「級化層理」「斜交葉理と斜交層理」「層理面」「走向と傾斜」「地層累重の法則」「整合と不整合」「かぎ層」「地層の対比」「褶曲と断層」「土石流と地すべり」といった基礎概念を押さえていく必要があります。また、野外調査に関連して、「クリノメーターによる走向・傾斜の測定」「ルートマップと地質図の読み方」は要注意です。
 「化石と地質時代」では、「先カンブリア時代」「古生代」「中生代」「新生代」の各地質時代の特徴(「エディアカラ化石群」「カンブリア紀の大爆発」「石炭紀」「恐竜の時代」「ほ乳類の発展」「人類の出現」「氷河時代」など)と、その時代を決定する「示準化石」とその地層ができた環境を示す「示相化石」を押さえていきます。こうした化石による地質時代区分が「相対年代」であるのに対し、「放射性同位体」の「半減期」を使った「絶対年代」である「放射年代」の測定も重要です。
 「大気・海洋の構成」では、「大気の構造」「海洋の構造」「太陽放射と地球の熱収支」「転向力(コリオリの力)と気圧傾度力」「地衡風と傾度風」から「大気の大循環」(ハドレー循環、ジェット気流、偏西風波動、ロスビー循環など)、「海水の大循環」(亜熱帯還流、西岸強化、中層循環、深層循環など)、さらに「乾燥断熱減率と湿潤断熱減率」から「雲の発生」、「フェーン現象」などを押さえていきます。また、「寒冷前線と温暖前線」「閉塞前線と停滞前線」「高気圧と低気圧」「春夏秋冬の気象」「梅雨前線」「台風」「海風と陸風」といった「天気」の基礎事項から、「エルニーニョ現象とラニーニャ現象」「地球温暖化」「酸性雨」「ヒートアイランド」「オゾンホール」といった環境問題まで広く扱っていきます。

(3)宇宙物理学
 「地球の運動」に関連して、「恒星の日周運動」「フーコーの振り子の実験」「太陽の年周運動」「天球上の黄道、春分点、秋分点、夏至点、冬至点」「光年とパーセク」「年周視差」「年周光行差」「平均太陽時と均時差」「世界時と標準時」などの基礎概念を押さえていきますが、特に「天球」の理解が重要です。
 「惑星の運動」に関連して、「順行と逆行」「外惑星と内惑星」「合と衝」「最大離角」「会合周期」を学び、「ケプラーの法則」(だ円軌道の法則、面積速度一定の法則、調和の法則)を押さえていきますが、特にケプラーの第三法則(調和の法則)「惑星の太陽からの平均距離(=だ円軌道の半長軸)aの3乗は惑星の公転周期Tの2乗に比例する」は実際に応用計算ができなければなりません。
 「太陽の構造と活動」では「黒点」「白斑」「紅炎(プロミネンス)」「コロナ」「太陽スペクトル」「フラウンホーファー線」「核融合反応」「フレアとデリンジャー現象」「太陽風」「磁気圏と磁気あらし」「バンアレン帯」などの基礎概念を押さえていきます。
 「恒星の明るさと性質」では、「見かけの等級と絶対等級」「恒星のスペクトル型と表面温度と色」「ウィーンの変位則」「シュテファン・ボルツマンの法則」「恒星のHR(ヘルツシュプルング・ラッセル)図」「主系列星・巨星・白色わい星」「連星(主星・伴星)」「食変光星」「質量光度関係」などを押さえていきますが、特に「HR図」の理解は絶対に必要です。
 「恒星の誕生と進化」では、「星間物質と星間雲」「散光星雲と暗黒星雲」「原始星と赤外線星」「白色わい星と赤色巨星」「変光星」「新星と超新星」「中性子星とパルサー」「ブラックホール」などの基礎概念を押さえていきます。恒星の質量によって、その終末の姿が変わってくることが要注意です。
 「恒星の種族」では、「散開星団と球状星団」「種族Ⅰ(第一種族)と種族Ⅱ(第二種族)」などの基礎概念を押さえていきます。
 「銀河系の構造」では、「バルジ」「円盤部」「ハロー」「星間ガス」「クェーサー」「泡構造」「赤方偏移」「ハッブルの法則」「ビッグバン」などの基礎概念んを学んでいきます。この分野は進展著しい天文学の成果がふんだんに取り入れられている分野です。

(4)地学から宇宙論へ
 地球も宇宙を構成する惑星の1つであり、「宇宙創成」の一部が「地球創成」でもあるわけですから、広い意味で「宇宙論」と位置付けてもいいかもしれません。そうすると、「宇宙論の歴史」を知ることが大きな意味を持ってきますので、次のことぐらいは知っておきたいところです。
①ビッグバン理論
ハッブルの法則(1929年)~「赤方偏移」(変光星のスペクトル分析をすると、どの星も色の成分が赤い方に向かって相対的に同じ大きさだけずれている現象)+「ドップラー効果」(音源や光源が観測者に対して相対的な運動をする時、観測される波の振動数が規則的に変化することを示した物理法則)→全ての星が地球から遠ざかっており、遠くにある星ほど遠ざかるスピードが速い(赤方偏移の割合は銀河までの距離に比例し、銀河の後退速度もその距離に比例する)→膨張宇宙論「宇宙は膨張している」
ビッグバン理論(1948年)~ガモフ(←フリードマン)、宇宙は100~200億年前に超高温、超高密度の火の玉のような状態から爆発してできた⇔定常宇宙論(ホイル、仏教の輪廻宇宙論もこれに通じる)
宇宙背景放射(宇宙黒体放射)の発見(1965年)~ビッグバンの名残としてのマイクロ波の検出→ビッグバン理論がほぼ確定的になりました。

②インフレーション理論
インフレーション・モデル(1980年)~ミクロ的な量子宇宙とビッグバン以後のマクロ的宇宙との橋渡しの理論。ビッグバン理論が抱える「地平線問題」(宇宙はなぜこれほど一様で等方的なのかという問題。ビッグバン理論では、宇宙の誕生時には物質やエネルギーの密度のゆらぎ〔でこぼこ、これが後の銀河の種子になったと考えられます〕があったはずですが、宇宙背景放射はきわめてムラの無い一様な状態であることが判明し、これは宇宙がその誕生時には密度が非常に均一であり、銀河の種子が無かったことを意味します。これに対して、インフレーション・モデルでは急膨張以前の段階でこうした均一性がチューニングされていたとしています。ちなみに1989年に打ち上げられた宇宙背景放射探査衛星COBE〔コービー〕によって、それまで見つからなかった宇宙背景放射の微妙なゆらぎを発見し、宇宙の初めには確かに銀河の種子があったことが証明され、ビッグバン理論に強力な裏付けを与えたのです)と「平坦性問題」(観測によれば、宇宙の曲率は限りなくゼロに近い所にあり、宇宙はなぜこんなに平べったいのかという問題。確率論的にはほとんどゼロに等しい現象とされます。これに対して、インフレーション・モデルでは宇宙も初期には曲って見えたかもしれないが、インフレーションによる急激な膨張でそのゆがみが引き伸ばされ、今、観測できる限りの範囲では平らに見えるようになったとしています)、さらに大統一理論のネックとされる「モノポール問題」(大統一理論によれば、真空の相転移の理論的帰結として様々なモノポール〔磁気単極子〕が存在し得るが、未だに見つかっていません。これに対して、インフレーション・モデルでは今日の宇宙はたった1つの対称性が破れた場から、言い換えれば、無数にできた真空の泡の1つから急膨張によって生まれたもので、モノポールは存在しないとしています)の3つが理論的には一気に解決されたと言われています。

③宇宙誕生後の宇宙創成のプロセス
 ①10-44秒後 重力が他の力から分かれました(これ以前が「超大統一理論」の世界、プランク期と言います。「超弦〔ひも〕理論」はこの時期を扱っています)。
 ②10-36秒後 強い力が分かれました(ここまでが「大統一理論」の世界、GUT期と言います。インフレーション・モデルがこの時期を扱っています。GUT期が終わる10-33秒後当たりをビッグバンと呼びます)。
 ③10-11秒後 弱い力と電磁力が分かれました(ここまでが「電弱統一理論」の世界)。
 ④10-4秒後 クォークが結合して陽子と中性子ができました。
 ⑤3分後 軽い原子の原子核ができました。
 ⑥30万年後 原子ができました。

④宇宙論の諸問題
宇宙の大規模構造~グレート・ウォール(銀河の密集した部分が3億光年もの長きにわたって延々と並んだ、壁のような大構造を作っていることが分かりました)
グレート・アトラクター~我々の属している局所銀河団を膨大な重力で引っ張る(「ストリーミング運動」)超銀河団の存在→スーパー・アトラクター(超々銀河団)→スーパー・クラスター複合体
ボイド(泡)~スーパー・クラスター同士の超大構造の間隙に延々と広がる、ほとんど全く物質の存在しない広大な空間。
ダークマター(暗黒物質)~宇宙における全物質(銀河や超銀河団)を分布し、集合させているエネルギーを現在の観測事実に矛盾することなく算出すると、宇宙の90%以上もの未知なる物質の存在を想定しなければなりません。

⑤人間原理宇宙論
基本物理定数~重力定数、光速度、プランク定数、電荷、電子質量、陽子質量、中性子質量など。この中の1つでもわずかでも違っていたら、宇宙も星も生命も人間も存在し得なかったとされます(例えば、重力定数が現在よりわずかでも大きかったら、全ての星は短期間で燃え尽き、惑星上で生命が進化する時間はありませんでした。逆に重力定数がわずかでも小さかったら、宇宙には暗い星しか存在しませんでした。また、原子核の中で陽子や中性子を結び付けている核力が数%でも大きかったら、宇宙には水素原子がほとんど存在せず、生命に必要な水も無かったのです。逆に数%でも小さかったら、宇宙には水素原子しかなかったとされます)。
人間原理~「物理定数が現在あるような値を取っているのは、そうでない限り宇宙に生命が誕生できず、したがってその問いを問うている私達も存在し得なかったからだ」、「宇宙意志」の存在。
弱い人間原理(ディッケ)~「私がいるから宇宙はかくある。」
強い人間原理(カーター)~「私が問うから宇宙はかくある」「我思う、故に宇宙あり。」